前回の治療が終わってから8年が経った患者さん
定期検診に来ない間にどのような変化があって歯根破折を起こしたのでしょうか。
陳旧性の歯根破折では歯根の周囲に不良肉芽組織がびっちりくっついていることが多いようです。
今回はインプラント治療に向けた歯根破折の抜歯について記述します。

患者さんは60代男性、歯並びはⅡ級2類。

芸能人では石原さとみや真矢みきのように上の前歯の軸が内側に倒れているタイプです。

右上側切歯という真ん中から2番めの前歯が、痛くて腫れて動くということで来院しました。

お口の中を一通り診査すると側切歯が歯根破折を起こしており、歯根の周囲に大きな病変ができていました。

X線写真

現在の状況、これから予想される中・長期間に起こりうる事を説明し、この歯の治療法として抜歯を提案すると、ご自身でもそうであろうと思っていたらしくすぐに承諾しました。

抜歯後の治療法としてブリッジ、インプラント、義歯の利点欠点をそれぞれ説明すると、患者さんはインプラントを希望しました。

実はこの患者さんは8年ほど前に左上中切歯の歯根破折で抜歯を余儀なくされ、当院でブリッジによる補綴治療を行いました。

ブリッジはその後快適に使用できておりましたが、定期検診にお越しにならずにいたため心配していました。

Ⅱ級2類のため上顎前歯部の負担が気がかりでしたが、やはり8年間放置していたため下顎の突き上げが強くなっていたので咬合調整をしました。

補綴治療は人工物なので、装着したら治療は終わりますけどメインテナンスの始まりなのです。

ですから、今回の抜歯後にブリッジを選択すると既存のブリッジを壊して新たに5本連続したブリッジを新製することになります。

5本連続したブリッジの適合精度を得ることは至難の技です。

単独のクラウンの適合を得られない歯医者が5本連続のブリッジをするなんて、ハイシャではなくハカイシャです。
でも、たまに見かけますよ。
すごく長いスパンの保険のブリッジを。
多分患者さんもブリッジを望んだのでしょうね。
きちんと説明を受けたかどうかはわかりませんが。

患者さん自身もこれから新たに起こる歯根破折の心配をされていたので、初めからインプラントを考えていたようです。

インプラントを選択することで治療内容が格段にシンプルになります。
ブリッジを選択すると治療内容がかなり複雑になってきます。

だからといってインプラントが簡単だということを言っているのではありません。
インプラント治療自体の難しさは当然あります。

まず、唇側の骨がかなり失われているのが歯の周囲のサウンディングでわかっていました。

前歯のインプラントは唇側の骨が薄すぎると予後に不安が残ります。
歯肉の厚みも重要で、天然歯以上の歯肉があったほうが安心です。

今回の計画は、抜歯をしてリッジプリザベーション(オープンメンブレン)、3〜4ヶ月後インプラント植立する予定です。

抜歯

抜歯をする際には極力歯槽骨に力がかからないようにするため愛護的に抜歯をする必要があります。

鉗子で抜歯をすると破折歯の大片がとれて小片である歯根部が残りましたが、歯根膜腔にペリオトーム入れて優しく取り除きました。

掻爬

破折歯を抜歯した後、とても大事な作業が掻爬です。

レントゲン上に大きな病変が確認できていたので、この病変を徹底的に取り除きます。

この組織が残っていると骨の再生の邪魔になってしまいます。

根管治療がうまくいっていなかったり、歯根破折のようにある程度長期間経過していると骨に不良肉芽組織が形成されてしまいますが、これを除去するのにも顕微鏡があるととても有効です。

これは不良肉芽組織なのか嚢胞なのかは病理組織に出さないとわかりませんが、除去するべき組織に間違いがありません。

イラストではこのようなイメージです。

抜歯した歯根とこの組織の凹んでいるところを合わせるとぴったり一致していました。

破折した歯は根管治療をされていましたが、綺麗になって骨が見えだすと根管充填材?と思われるような物質が骨に入り込んでいました。

リッジプリザベーション

抜歯窩を綺麗にした後は少しでも骨や歯肉の減少を食い止めるために骨補填材と膜を設置します。

唇側の骨はかなり吸収されています。

骨細胞と歯肉の細胞とでは再生するスピードが異なり、歯肉の細胞の方がそのスピードは早いのです。
唇側の骨吸収が進んでいるところをそのままにしておくと、歯肉が侵入してしまい骨が再生するスペースが小さくなってしまいます。
骨補填材が骨になれば良いのですが、今のところ骨細胞が再生してくれるための場所取りというイメージです。

骨補填材

リッジプリザベーションの詳しい説明はこちら

縫合


約2週間を目安に抜糸をし、4〜6週後に膜をとります。

術後の約1ヶ月半が抜歯をした場所に細胞たちがフル活動で修復・再生を行う大事な期間なので、患部はそーっとしておく必要があります。

この患者さんは縫合した糸をゴミだと思って触ってしまいましたといってましたが、触っちゃダメです!

そっかー、縫合糸をゴミだと思う人もいるのね。今度から術後の注意事項として加えます。
良い勉強になりました。

術後5日

歯ブラシも当面当てられないので、できれば可能な限り来院してもらい私達が患部周辺の清掃をしたいのですが、患者さんは葛飾区からきているので来院が限られてしまいます。

当院では術後の洗口剤としてコンクールをお勧めしています。
ぐちゅぐちゅと口の中が嵐になるようなゆすぎ方は控えてもらい、優しく含むように洗口してもらいます。

術後の痛みや腫れはほとんどなかったようです。

外科処置は誰にとっても痛くて怖くて避けたいものですが、できるだけ負担が最小限になるように努力しています。

外科処置をやった方が明らかに予後がいいのにこれを避けてしまうと、患者さんにとって不利益になってしまいます。

ほとんど毎日のように行う麻酔の注射でも、全力で患者さんが痛くないように配慮しています。

治療を振り返って

患者さんはこの8年間で前歯2本を歯根破折で失いました。
どちらの歯も根管治療済みの歯で、メタルコアが装着されていました。

近年歯根破折で失われる歯が多いことを考慮して保険でファーバーポストコアが導入されました。
しかしファイバーポストに換えれば歯根破折がなくなるという単純なことではありません。

歯根破折を最大限防ぐためにはモノブロック化が必要になります。
要はどれだけ接着を最大限効果的に発揮させるのかが成功の鍵になります。
ファイバーポストコアに使われる材料ではレジンが使われますが、狭い根管の中で重合させると収縮を起こします。
Cファクターが高いので重合収縮は免れません。

これがマイクロリーケージとなって外部からの漏洩を許してしまう要因ともなります。

非常にテクニックセンシティブな処置内容になります。

果たして健康保険で行うファイバーポストコアの治療にどれだけ配慮している歯医者がいるのでしょうか。

この患者さんが長期に渡って口腔の健康を保つにはどうすればいいのか。
コアの話とは別に、歯並びのⅡ級2類という要因も気がかりな部分です。

インプラント治療を選択したことに間違いがないのか、今回の治療に妥当性があるのか。
検討に検討を重ね治療を行いました。

今現在患者さんとともに考え選択した治療法に全力を尽くすのみです。

患者さんには定期的なメインテナンスの重要性も伝えていかなければいけません。

費用
抜歯 20000円〜
リッジプリザベーション(骨補填材、エムドゲイン の使用量によって変動)80000円〜