今や顕微鏡(マイクロスコープ)は珍しい治療法ではなくなりつつあります。
顕微鏡は何のために使用するのか。
今まで見えなかったものを見るため。
しかし顕微鏡を所有している歯科医師は共通の認識を持っているわけではないようです。
平成30年9月に三橋先生が「ミラーテクニック道場」という新しいセミナーを立ち上げました。
顕微鏡治療の道標(みちしるべ)になるセミナーです。

三橋先生が師範となって道場生達にミラーテクニックを教授するという新たな試みのハンズオンセミナーを開催しました。
私も師範代としてお手伝いしました。

なぜ道場形式なのか。

1度だけハンズオンセミナーを受けただけでは、なかなかそのテクニックを習得できません。

柔道や剣道、空手などの道場は師範の動作、身のこなしをお手本とし、反復練習のため定期的に道場に通います。

本セミナーもまさに武道のような発想で行われて行きます。
セミナー受講後も定期的に道場に来てもらい、ミラーテクニックを習得してもらいます。

セミナー受講に先立って、道場生達には通信教育として複数の課題に取り組んでもらい、Dropboxで動画を提出してもらいました。
師範である三橋先生が14人の道場生たちに丁寧にアドバイスを送るわけですが、忙しいにもかかわらず一人一人の動画を確認してコメントすることは並大抵のことではありません。

こんなにきめ細かなセミナーは他にないのではないのでしょうか。

このセミナーの「ミラーテクニック」とは顕微鏡治療限定でのミラーテクニックのことです。

現在歯科界の潮流としては、歯科治療には拡大装置が必要と考える歯医者が増えてきています。
拡大装置には顕微鏡(マイクロスコープ)、ルーペがあります。

ルーペは拡大率の種類は多数ありますが、ある拡大率のルーペを選んで購入すると拡大率は一種類のため拡大率の切り替えができません。

例えば5倍の拡大率のルーペを購入したら、倍率は5倍か肉眼しか選べません。
しかも倍率の基準はメーカーによってまちまちで、同じ5倍でもメーカーによって拡大率が異なるそうです。

顕微鏡(マイクロスコープ)は数種類の倍率を切り替えることができるので、その時の処置に適した倍率を術者が任意で切り替えることができます。

ルーペでもマイクロスコープでも小さなものを拡大して「見る」ことに変わりはないので、歯科医師の考え方でどちらを選ぶか変わってくるのでしょう。

見えなかったものを見る
この行為は実はそう単純なことではないのです。

マイクロスコープで小さなものを拡大することは少し練習すれば簡単にできます。
それだけなら今日マイクロスコープを買ったら明日から治療に使えるかもしれません。

しかし歯科治療の場合、入口は正面にしかありません。
上唇・下唇・左右頬粘膜に囲まれた小さな入り口から「口の中」を見るのです。

しかも口の中には28本の歯や舌があり、それぞれが視界を遮る壁になります。

ただ単純に拡大さえすれば「見えないものが見える」わけがありません。

この死角で見えないものを見るためにミラーテクニックが必要になります。

しかしミラーテクニックを身につけることは練習が必要です。
大学でもミラーテクニックを教えているところはないと思います。
少なくとも私が学生の時は教えてもらったことはありませんし、歯科大学病院にいた時も指導医から教えてもらったことはありません。

多くの歯医者は口の中を覗き込むために歯医者自身の頭を傾けますが、私が新人歯科医の頃、頭を傾けて一生懸命口の中を覗き込んでいる私の姿を見ての先輩の誉め言葉が、「つむじが良く見えてたぞ」でした。

しかしいくらつむじを皆んなに披露するくらい頭を傾けていたとしても、歯の壁の死角の向こうは見えません。
手探りで治療していました。

ミラーテクニックは口の中にミラーを入れて、ミラーの位置や角度を変えるだけで死角を見ることができます。
術者の位置は基本的に12時の位置、つまり患者さんの頭の上の位置になり治療中に術者の位置の移動はほぼありません。
私のつむじを見せることは決してありません。

簡単にまとめると、死角を克服するにはミラーテクニックの習得は必須であるが、それ相応の修練が必要であり歯科医師の努力と真摯さが試されるハードルだと考えています。
顕微鏡(マイクロスコープ)を使うための適性検査だ、というのは言い過ぎでしょうか。

なぜこれほど大切なものなのに習得する努力を避ける歯医者が多いのでしょうか。

その原因は、マイクロスコープのはじまりは根管治療から広がったからではないかと考えています。
根管治療の難しさはもちろんありますが、顕微鏡の操作はそれほど難しくはありません。

現在でも顕微鏡といえば根管治療で使う歯科医師が多いですし、顕微鏡治療についての発言権が強いのも根管治療の先生です。

日本顕微鏡歯科学会の理事や主要な先生も根管治療の先生が多数を占めており、フェイスブックなどのSNSでの影響力が大きいのも根管治療の先生です。

根管治療の先生がミラーテクニックの必要性を全くと言っていいほど発信していません。
現在の顕微鏡治療について発言権のある、もしくは影響力の強い先生がミラーテクニックについて発信していなので、一般会員の歯医者はその必要性を感じつつも避けているという印象を持っています。

顕微鏡(マイクロスコープ)は根管治療だけに使うのではもったいなさすぎです。

虫歯の治療、歯周病の治療、冠を被せる治療、親知らずを抜く治療などの一般治療で顕微鏡の威力を発揮しないと勿体無いです。

そのためにはミラーテクニックの習得は必須です。

今回第1期のミラーテクニック道場は応募発表4分で14人の定員が満席になりました。
やはりミラーテクニックが必要と考えている歯科医師はいるんだと嬉しく感じました。

7時間という短い時間でしたが、道場生たちは休憩時間も惜しみながら実習に取り組んでいるその姿に頭が下がる思いでした。

見えるために使うはずの顕微鏡なのに、見えないままで顕微鏡を使っている歯医者が増えていることにとても憂鬱な思いでいました。

そんな時に三橋先生からミラーテクニック道場のお話を聞いたときはとても嬉しく感じました。

別に他の歯医者がどんなやり方をしていようがどうでも良いのですが、現在顕微鏡についてミラーテクニックを必要としない考え方の歯医者が大変多いことと、学会などの発表を見ても「手探り?!」と思う発表が多く、これが「顕微鏡歯科治療」という認識が広がることがどうしても受け入れられませんでした。

ミラーテクニック不要論の良いところは、顕微鏡の普及率が高くなる可能性が高くなることです。
マイクロスコープで拡大することは現代では常識であり患者の利益になる。
顕微鏡治療に高いハードルがあると歯医者が敬遠してしまい顕微鏡普及率が低くなり患者の不利益になってしまうため、顕微鏡治療だからミラーを使って12時の位置にする必要はなく、今まで自分がやっていたポジション、例えばつむじが見えるようなやり方で覗き込むポジションでそこに顕微鏡をもってくるというやり方です。
これだと死角ができてしまうことは先に述べました。

顕微鏡を使うからと言って今までのポジションスタイルを変える必要がないという考えです。

要するに、あまり難しいことをやると歯医者側に顕微鏡が普及しないからこれでいいじゃん。
だって今までこのスタイルでやってきて何にも問題なかったでしょ?
ということらしいです。

医科では歯科よりだいぶ前から顕微鏡を使った治療をしております。
医科の顕微鏡の治療にはミラーテクニックというものがないそうです。
先述した通りミラーテクニックは歯科独特のものだと思います。

顕微鏡を口の中に突っ込まない限り絶対に死角はできます。
要は見えなくても両手を使って治療するか、鏡像とはいえ見ながら治療するのか、どちらがその場面に適しているのか、歯科医師の判断に違いができるということです。

同じ顕微鏡を使うにしてもいろいろな考え方があり、どのスタイルを選ぶのは歯医者の自由です。
ただ今までミラーテクニック推奨論者がほぼいなかったのでバランスがとれていませんでした。

三橋先生は平成31年から日本顕微鏡歯科学会の会長に就任されます。
学会初の根管治療専門ではない、あらゆる治療に顕微鏡を使用している歯科医師が会長に就任します。

任期は2年です。

顕微鏡の使い方に正しい・悪いはないと思っています。

現在ミラーテクニック不要論の先生方に大分押され気味ですが、ミラーテクニック推奨論を発信していきたいと思います。

これから顕微鏡を使い始めようとする先生は両論をよく吟味してご自身の治療に役立ててください。