顕微鏡治療をしていると感じることは、多くの患者さんに共通していることは今までの保険治療で痛い目にあっているということです。ですから治療のほとんどが再治療になるわけで、顕微鏡治療のスタートから悪条件で始める事がほとんどです。
今回はティーンエイジャーの患者さんの顕微鏡治療を紹介します。

患者さんは10代で船橋からお見えになりました。
患歯は右下6でまだ歯科治療が介入されていない歯でした。

顕微鏡治療を続けて10年になりますが、多くの患者さんは他院で治療を行った後のいわゆる再治療で来院されます。

特に裸眼で保険という制約の多い治療をされた歯は、すでに複雑化されておりいくら顕微鏡治療でリカバリーするといっても、大変困難な治療になる事がしばしばあります。

他院でもう抜歯と言われた歯を救うことも多いのですが、初めてその歯に手掛ける治療がしっかりとした顕微鏡治療であれば、経過の見通しもかなり良いものになるはずです。

患者さんはまだ10代なので、残りの人生はまだ70年ほどあります。
生涯自分の歯で噛みたいと考えるなら、若い人ほど顕微鏡治療する価値は大きいと思います。

勿論年配の患者さんでも、残り少ない人生だとしても、不自由なく噛める喜びというものはとてつもなく大きいものです。

どう生きるかの問題です。

残りの人生不自由なく噛むのも良し、残りの人生食べるのに不自由するのも良し。
選択権は自分自身にあります。

よく噛めることにどれだけ価値を感じるのかによって掛ける費用も変わってきます。
もし噛むことに価値を置くのなら、年1回旅行に行ってたのを今年は我慢して歯の費用に当てようというのも良いし、歯に数万円なんてとんでもない、ダメなら抜歯でも構わない、もその人の自由です。

ただ、保険はどういう価値観の患者さんにも十把一絡げで、どんな人にも一律な仕組みなので、噛むことに価値を置く患者さんにはたいへん物足りない制度だと思います。

今回の患者さんの人生はまだ始まったばかり。
顕微鏡治療がまだ若い患者さんの口腔の健康に必ずプラスになることを願い治療を開始しました。

患歯を拡大すると遠心に齲蝕を認めたので、レジン修復が一番侵襲の少ないMI治療になると判断しました。


隣在歯の誤切削に注意しながら「見ながら」齲蝕の除去をします。
この「見ながら」治療する事がどれだけ大事なのかは、ことあるごとに主張してきました。
多くの歯医者さんはこれを手探りで行います。
たとえ顕微鏡を「持っている」歯医者さんでもです。


入り口を広げると軟化象牙質がたくさん見え始めました。
軟化象牙質は虫歯です。
あんなに硬かった歯が、虫歯菌の出す酸でこんなに柔らかくなってしまいます。


さらに入り口を広げると深部まで虫歯が広がっていました。
歯と歯の間の虫歯は発見しずらい場所で、よく聞く話ではきちんと定期検診に行っていたのに神経を取らなければいけないくらい大きな虫歯があった、という話です。
その歯医者さんを庇うわけではないのですが、それくらい発見しずらい部位です。


歯の内部にまで進行した虫歯を「見ながら」除去します。
この虫歯は遠心にあるので、もし顕微鏡によるミラーテクニックを使わなければ、死角になる近心の健康な歯質を多量に削るか、ミラーでチェックしておおよその虫歯の位置を見当つけて削るのは手探りになるはずです。
まだそこまでする歯医者さんは親切な方で、もしかしたら虫歯なんか残っていても詰めちゃう歯医者さんもいるのではないかと思います。
そんな疑惑の歯を何百本も見てきました。


隣在歯の誤切削が無いかの確認はいつもしていますし、隣在歯の齲蝕についても毎回確認しています。
7の近心に誤切削はないのは当たり前なのですが、若干脱灰しています。
これまで患者さんと話してきた会話の中で、口腔衛生にも関心が高く実際にきちんとお手入れもしていますし、まだ齲窩になっていなかったので経過観察としました。


齲蝕染色液を参考にしながら感染歯質の除去をさらに進めていきます。
健全な歯質は可及的に温存しながら。


エナメル質と象牙質の境をエナメル象牙境と言いますが、ここはエナメル質の硬い層と象牙質の柔らかい層の境界で、この部分から齲蝕が広がっていきます。
この部位も見逃しがないよう注意が必要です。


齲蝕を除去していくと奥行きが深くなるボックス状になります。
こうなるとミラーテクニックを使わないと処置が正確にできません。
ミラーテクニックは「見ながら」治療をするための技術です。
医科では眼科や脳外科で顕微鏡が使われるのが有名ですが、彼らはミラーテクニックを使わないんだぞ、と主張する歯医者さんがいるようです。
ちょっとぶれたら失明してしまう処置にミラーテクニックを使うわけがないと、眼科医もそう話している記事を見ました。
それならミラーを使わないなら盲目的な治療の方がマシだということでしょうか。
多分眼科も脳外科も大事な処置部位に死角がないのだと思います。
そうでなければ失明や重い後遺症が出るかもしれない大事な処置を盲目的に行うことになります。
歯科特有の事情から、そこは眼科と脳外科の顕微鏡の使い方に差異が出ることは当たり前のことだと私は思います。
ミラーを使わなくても見えるところはそのまま見ればいいし、見えなければミラーを使って見ながら治療しましょう!ということをどうしてそんなに受け入れられないのでしょうか。
顕微鏡は見えるから凄いという人たちが、平気で死角で見えない部分を手探りで拡大治療している事が不思議でたまりません。


ミラーなら指先で少し角度を変えるだけで死角の部分がすぐ見えます。


齲蝕除去が終わったら充填に移ります。
レジン充填はマトリックスをどれだけ正確に設置できるかが鍵になります。
隣接歯肉側は充填が終わった後はストリップスを使おうが何を使おうがほぼ修正不可能です。
それと、ラバーダムはできるならした方が接着操作には良いと思いますし、虫歯が思いのほか大きくて神経が露出した場合でもバイ菌に汚染される心配がないので。


頬舌の適合とコンタクトを確認します。


これでやっと充填ができます。


辺縁隆線と咬合面


咬合面形態


充填後。
一番不潔域の隣接部に段差や隙間のないレジン修復ができました。


フロスもきちんと通ることを確認して終了です。
治療後は虫歯の再発がないようにきちんとお手入れをする事が大事です。

若い人はなかなか健康の大切さに気づきません。
このブログをお読みになっているお父さんお母さん、是非若いお子様が虫歯になってしまったら顕微鏡治療をご検討ください。
治療期間 1日
費用 顕微鏡レジン修復 53000円〜 税別

また、顕微鏡精密レジン修復を習得したい歯科医師もご相談ください。
顕微鏡精密レジン修復プライベートセミナー

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔