口の中は暗く歯は小さい。
歯の治療をしていて見えないところはたくさんあります。
そのために顕微鏡が必要になりました。
今回は「見えない」を3つに分類し、顕微鏡の有効な使い方はどのような方法なのかをまとめました。

歯科治療には不確実な要素がたくさんあります。

なかでも『見えない』ことによる不確実な割合はたいへん大きなものと考えています。

口の中はたとえ歯科医師が見たとしても暗くて見えずらく、歯は小さいため非常に見えないところが多いのです。

今回は『見えない』を私なりに3つに分類しました。

1つ目は『小さくて見えない』です。

歯の治療はたいへん細かい作業が要求されますので、小さくて見えないとどうしても不確実要素が増えてしまいます。

しかし顕微鏡(マイクロスコープ)を使えば、最大20倍〜30倍ほど拡大できますので『小さくて見えない』をクリアすることができます。

顕微鏡治療を説明する時には上記のことは非常に単純で説明しやすいことでもありますし、歯科医師にとっても特別なトレーニングは必要ないため拡大することは比較的簡単に実践することができます。

拡大視野では細部に渡り明視野で治療ができるので非常に治療がうまくいきます。例えば虫歯が深く進行した場合、通常であれば神経(歯髄)を取る処置になることも多いのですが、拡大をすると取らなければいけない虫歯の範囲や健康な歯質の範囲がわかります。
露出した歯髄も元気な歯髄なのか、弱っている歯髄なのか判断しやすくなります。
その後の修復処置も適合が良いものが装着できるため成功率がぐんと上がります。

これを肉眼で判断することは人間の眼では不可能なのではないでしょうか。

2つ目の『見えない』は『死角になっていて見えない』です。

一番奥の歯の後ろの面は見えません。
死角になっていれば、たとえ拡大を100倍にしてもなにも見えません。

このことは顕微鏡治療をしているという歯科医師は常に意識していないといけないことだと思います。

拡大下の手探り治療では顕微鏡治療の長所を生かしきれません。
しかしこれを解決するためにはミラーテクニックを身につける必要があります。

ミラーテクニックとは、口の中に歯科用の小さな鏡を入れて死角の部分を鏡を見ながら治療することです。

この技術は今日顕微鏡を買ったから明日からやります、という訳にはいきません。

それなりにトレーニングが必要になります。

要は難しいので、なんだかんだ理由をつけてミラーテクニックを身につけようとしない顕微鏡を使う歯医者さんが多いのです。

顕微鏡治療は、今までの手技が当てはまるものもあれば新たに身につけなければいけない手技があると考えています。

顕微鏡は内視鏡のように口の中に入れられないので、ミラーテクニックを使わなければどんなに患者さんが頑張って大きな口を開けても絶対に見えないところがたくさんあるのです。
ミラーテクニックができない顕微鏡を使う歯医者は口を揃えて「見えないものが見える」とか「精密な治療ができる」と言っているのに、死角で見えないところはサラッと流しています。

死角で見えないところを手探りで治療してどうやって精密に治療することができるのでしょうか。
実際の患者さんの歯。模型と同部位。

それと同時に人間の五感も大事にしています。

指先の感覚、音、匂いなど視覚との調和を大事にしています。

『死角になって見えない』を意識するのであれば自然とやるべきことは見えてくるはずです。

3つ目の『見えない』は『意識していないので見えていない』です。
強拡大で 映し出された視野でも、意識していないと見えていないことは多々あります。
また、知識がないために見えないこともあります。

特に根管治療では上から根管内を見るために僅かなくぼみや、レッジがある場合非常に気づきにくい場合があります。
CT画像で内部を把握しておくことも大事ですし、基本的な根管の解剖学的構造を知識として身につけておくことも重要です。

経験や知識で意識することによって克服しなければなりません。

顕微鏡治療に色々なスタイルがあって然るべきですが、これらの事柄は顕微鏡治療を行う歯科医師の共通言語にするべきことだと日増しに感じております。

補足として、外科的な治療では両手を使う場合はやむを得ない場合が当然ありますが、それでもミラーテクニックが身について入ればguessworkも最小限に抑えることができますし、修復治療に限っては『小さくて見えない』、『死角になっていて見えない』は ほとんど無いように考えています。

日本顕微鏡歯科学会のシーズンセミナーを聴講した時、下顎の親知らずの抜歯症例を供覧していた先生がおりましたが、ミラーテクニックを使わないguessworkであったため、親知らずの歯冠分割をしている際、隣の歯をかなり削っていた発表を見たことがあります。
失敗例として今後の教訓として出すのなら意味あることだと思いますが、そうではありませんでした。

多分気にしていないんだと思います。

手探りで行うのでこのような誤切削が起きてしまうのです。

もう一度顕微鏡を歯科治療で使うメリットをよく確認したほうが良いのではないでしょうか。

今、ネットで顕微鏡治療と検索すれば山のようにヒットしますが、同じ顕微鏡を使っていてもそのやり方は千差万別なんだということは知っておかれても良いと思います。

12月に行われる三橋純先生を師範としたミラーテクニック道場に向けて、受講生との通信教育が始まりました。
開催日まで計10回を予定しています。
私も師範代として5人の歯科医師を担当しますが、この機会に是非ミラーテクニックを身につけて貰いたいです。
自転車に乗るのと同じことで、初めは沢山練習が必要ですが誰もが乗れるようになります。
ミラーテクニックだって練習が必要ですが誰でもできるようになります。
上達への近道へのコツをお伝えできたらいいな、と思います。

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おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔