「根管治療では治せそうにもないので抜歯です」
と担当の歯医者から言われたら、あなたは諦めますか?
それとも行動しますか?

50代女性。
右下6に咬合痛とサイナストラクト(膿の出口)があり、担当の歯医者から抜歯を提案されました。
ご本人は抜歯を潔しとせず、インターネットで根管治療について調べたそうです。

浦安市外から当院にお見えになったということは何かの縁なのでしょう。

現代ではインターネットの普及によって得られる恩恵は計りしれません。
しかし、インターネット上の情報は玉石混淆。

歯科医院のホームページは良いことばかり書いてあり、私自身が快く思っていないことは、顕微鏡でろくに治療もできないのに最先端治療を標榜している歯科医院が少なからずある事です。

ですから、私がブログを書くときは実際の症例を画像を中心に、なるべく客観的に、他のこういう考え方や治療法もあるという事もできるだけ盛り込んで、実寸大のおもて歯科医院の顕微鏡治療をお伝えできるように工夫をしています。

ブログに使用している画像は全て顕微鏡治療中に記録している動画から使用しています。

来院時のレントゲン写真では根の周囲を大きく取り囲む黒い影が認められます。
骨が壊れておりバイ菌による感染の可能性が考えられます。

口腔内を観察すると患歯の頬側にサイナストラクトができています。

術前にポケットとの交通、分岐部病変と歯根破折を可能な限り診査しました。

歯科の治療は治療を進めながら診断することも多いので、根管治療を開始したとしても歯根破折などがあったら大きく方向転換をしなくてはいけないこともあります。

患者さんは根管治療に前向きだったのでCTを撮影しました。

サジタル像

遠心コロナル像

近心コロナル像

アキシャル像

抜歯と診断してもおかしくはないくらい病変は広がっています。

治療費、治療回数、治療費、成功率、根管治療が成功しなかった場合の次の一手等を説明し治療を開始することになりました。
リトリートメント(根管治療の再治療)で病変があり自覚症状のある歯の根管治療の成功率は60%くらいと言われています。

根管治療にかかる費用は約20万円、治療回数は3〜5回の予定で開始しました。

クラウンとコアを除去した後、隔壁を設置し根管内を整理します。
CTで観察すると遠心根の根管充填材が頬側に偏在しているので、舌側に根管かフィンか何か未治療の部分があると予測を立てていました。

顕微鏡による拡大とCTの情報で安全に自信を持って探索ができます。

未治療で清掃されていない部分を触ると、非常に柔らかく削片がボロボロとたくさん取れました。

CTでは近心根はVertucciのTypeⅡで2ー1の根管形態です。
根管充填材を除去してCTで得られた根管の形態・方向をイメージしながら根管を形成していきます。

根管充填材除去の確認のレントゲン写真。

さらに遠心根を綺麗に整理していきます。

結果的に途中から根管が分岐していましたが、穿通には至りませんでした。

頬側の根管にはレッジができていました。

根管治療を進めると頬側のサイナストラクトと咬合痛などの自覚症状は消失しました。

水酸化カルシウムで貼薬し1ヶ月経過を観察しました。
水酸化カルシウムの長期の貼薬は象牙質を痛めてしまうという報告がありますが、治療のステップを確認してから次に進めることと根管治療が成功しなければ抜歯が濃厚だとの判断で今回はこのような選択をしました。

無事1ヶ月何事もなかったので17%EDTAで洗浄後6%次亜塩素酸ナトリウムで20分間ピエゾフローで根管洗浄しました。

根管充填はMTAセメントで行いました。
MTAセメントはpH12前後の強アルカリ性でカルシウムを長期間放出し、組織の治癒に有効であること、僅かな膨張があるため根管壁との封鎖性が優れています。

根管充填後レントゲン写真

欠点は操作性が悪いことと、再治療の際除去が困難であることです。
今回は再治療はない前提で初めてはいますが、顕微鏡で根気よく行えば除去も不可能ではありません。

MTAセメントは世界で使用されており、研究も盛んに行われている優れた材料ですが、この材料を使えばなんでも治るわけではありません。

根管治療でいえば、感染物質の除去とコロナルリーケージ(漏洩)の配慮がなければMTAセメントを使用しても効果がありません。

根管充填後コアを築造し仮歯を装着してさらに1ヶ月経過を観察しました。

咬合痛などの自覚症状やサイナストラクトの出現はありません。

術後1ヶ月レントゲン写真

この時点でレントゲン写真から治癒傾向が認められたので補綴治療(冠を被せる治療)を開始しました。
最終的な冠を被せて、根管治療術後4ヶ月のレントゲン写真

術前術後の比較

現在順調に治癒へ向かっています。

歯を抜かなければいけないかもしれないという、不安と悩みを抱えていた患者さんは大変喜んでおられました。

この患者さんは来院する時はいつもニコニコしていて、迎え入れる私たちも気持ちがリラックスしていました。

歯をもたせられるかどうかの厳しい局面の中で、何か救われたような気もします。

本来は逆でないといけないのに笑。

高い治療費を払っていただくからには、それなりの結果を出さないといけないという私の治療中の表情はきっとしかめっ面なんでしょうね笑。
精神的にも緊迫してるさなかの患者さんの柔らかな対応は救われます。

精神的に張り詰めた中で全力を尽くしてもなお、余裕でいられる本物のプロフェッショナルになれるように精進したいと思います。