歯科医療は科学とアートの融合と言われることが多いのですが、芸術的センスが必要というわけではありません。歯の形を正確に捉えることが大切で、その目を養い手を動かす訓練が必要です。
今回はカービング(歯型彫刻)から繋がり、顕微鏡レジン充填に至った内容をご紹介します。

歯科医師にとって歯の形をしっかり頭に入れておくことはとても大切なことであり、それをアウトプットで手を動かして形にする必要があります。

私の先輩が教えてくれた言葉で、
「理論なき実践は暴挙であり、実践なき理論は空虚である」
をいつも肝に銘じて、ただ勉強するのではなく手を動かせるように努めています。

特に歯科医師は手を動かして、頭にイメージしているものを具現化しないとどうにもなりません。
理論も実践も兼ね備えた歯科医師になりたいと思っています。

その練習法として古くからカービング(歯型彫刻)というものがあります。
カービングには自由彫刻、模刻などがあり、石膏をナイフを使って歯の形に彫刻していきます。

自分でもちょこちょこカービングをしていたのですが、きちんと先生に見てもらいたいと思い、歯科技工士の難羽先生の彫刻教室WCC( Worth Carving Club)に参加しました。

見本の歯をお手本とする模刻をしました。
茶色の歯がお手本で白い歯が私が彫刻した歯です。

参加していた受講生は私以外は歯科技工士でしたが、たまに歯科医師の受講者もいるみたいです。
難羽先生の他にインストラクターもいらしてて細かなアドバイスをいただきました。

一日中歯をじーーっと集中して観察することもなかなかそういう機会はないので、実習終了後はくたびれました。

10月にもあったのですが、10月は結構セミナーなどが集中する月なので参加できなったことが残念なのですが、次回は必ず参加したいです。

実習が終わって後日インストラクターの先生から治療の連絡をいただきました。

歯科技工士にレジン充填。
歯科技工士の歯の形態を私が付与するのもちょっと恥ずかしい気がします。
しかもインストラクター。
まあ、いつも通りやるだけですが。

左下4はすでに咬合面にレジン充填がされています。
歯のポジションの影響で辺縁隆線も不揃いです。

歯につけている器具はバイタインリングという器具で、孫悟空の頭に付いている輪っかのようにぎゅうっと閉まると歯と歯の間に30umほどの隙間ができます。

現在私は歯と歯の間の虫歯の検出に、このバイタインリングとLEDライトを使用しています。
歯には光の透過性がありますが、虫歯や亀裂があると光の屈折率が変わるので視覚的に見やすくなります。

他の検出法は咬翼法というレントゲン写真やダイアグノデントなどがあります。
それぞれの感度・特異度はわかりませんが、「実際に見る」が一番良いと考えています。
これは顕微鏡だからこそできることだと思います。

歯の切削を始めると虫歯が見え始めました。

顕微鏡歯科医なら当たり前のことですが、「見ながら」治療します。

そうすることで虫歯の取り残し、隣の歯の誤切削、健康歯質の無駄な削除は無くなります。

旧レジンの除去も健全歯質は極力削らずにレジンを取り除きます。

近心にも小さな虫歯があったので、それを取り除いた後セパレーターを使って歯間を離開します。

歯間離開することで隣の歯にレジンがくっつかずに充填することができます。

遠心はラバーウェッジ法で隣接部を充填します。

この方法は隣接歯肉側の適合を向上させる他に、辺縁隆線に自然な丸みを与えフロスを通しても毛羽立たないようにする効果があります。

歯と歯の間はお手入れがしにくいところで不潔域になりがちです。
そこに不適合な修復物を入れればさらにお手入れがしにくくなり予防のできない修復物になってしまいます。
辺縁隆線と咬合面はペーストレジンを使用しています。
フロアブルの物性はかなり向上していて、商品によってはペーストレジンを超えているものもあることは知っていますが、レジンという材料の特性を考えると私はまだペーストレジンを選択します。
メーカーの開発なしにレジンの発展はないのですが、レジンはモノマーとフィラーからできており、物性を高めるにはどれだけフィラーの量を増加させるかが一つの鍵となっています。

そのためにフィラーの形状やシラン処理の仕方を、各メーカは色々工夫しています。
あるメーカーのレジン開発の研究員と話をする機会があったのでその辺のことを尋ねました。
そのメーカーはペーストレジンを超えたフロアブルレジンと称する商品を出しているメーカーなのですが、シランに工夫をしているがそれ以上のことは企業秘密ですと話していました。

咬合面の大部分が失われていたのですが、なるべく残っている手がかりを頼りに元の形であったろう形を想像しながら賦形しました。

顕微鏡精密レジン充填の1番の特徴は適合です。

レジン修復は直接法なので切削した新鮮な歯面に接着させることができます。
インレーは間接法で、型採りをしてインレーを作製する期間は仮封をしますが、ほぼ漏洩します。

だから予後に大きな差が出るということはありませんが、適合の良いインレーを作製するのはなかなか大変です。

最後には必ずフロスを通して確認します。

このようにレジン修復はルーティーンにラバーウェッジ法で精密に治療し、フロスがきちんと通る段差のない、虫歯の再発を予防ができる修復物です。

費用 レジン修復 59400円
回数 1回

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔