ある雑誌に非常に興味深い歯科の記事が掲載されました。
取材を受けた歯科医師とは面識がないのですが、Facebookで話題にされていたのでネットに出ている記事を読んでみました。
「我々はボランティアでやっているのだから」という考えは抜きにして、歯科医師はきちんと考えなくてはならないことだと思います。

2016年6月28日の投稿を加筆修正

過当競争の歯科医師「ちゃんと治すと上司が怒る」
2016年6月27日 7時0分 NEWSポストセブン

 歯医者に通っていて抱く最も素朴な疑問は、“なぜ治療が延々と終わらないのか”だ。現役の歯科医で、千葉市にある稲毛エルム歯科クリニックの長尾周格(しゅうかく)院長が、驚くべき証言をする。
「何度も虫歯治療が繰り返される理由? 歯医者が虫歯をきちんと取らないまま、被せたり詰めたりしているからですよ。そんな状態で治療を繰り返すと、歯はどんどん悪くなっていく。つまり、歯医者が虫歯を作っているのです」
 長尾院長は北海道大学歯学部大学院を修了後、2003年に東京都内の大手歯科クリニック(現在は廃業)に就職した。そこで、歯科医療界の驚くべき実態を目の当たりにしたという。
「虫歯に侵襲された部分を染める『う蝕検知液』という薬液があって、これをかけると一発で虫歯の取り残しが分かります。しかし、当時の勤め先のクリニックの約20人の同僚の誰一人としてそれを使っていませんでした。虫歯の取り残しは確信犯です。他にも削ってはいけないところを削るとか、(歯)根の治療でも消毒や治療をやっていないとか、おかしなことは数え上げたらきりがなかった。
 他人はどうあれ、自分はちゃんと治したいと思うので、治療に時間や手間ヒマをかけると『長尾先生は患者をたくさん回さない』と経営者にいわれました」
 日本の保険診療は「出来高制」と呼ばれ、歯を削れば削るほど利益が上がる仕組みになっている。長尾院長が勤務していたクリニックは、歯科医の大半が歩合制。治療技術よりも、たくさん治療したか、クリニックの売り上げに貢献したかが評価され、給料につながっていた。
「売り上げの2割が歯科医の給料になるという歩合制でした。僕の年収は約1200万円くらいだったと思います」(長尾院長)
 さらに、このクリニックでは診療報酬の不正請求も行なわれていたと長尾院長は証言する。
「特に歯周病治療だと、口の中に証拠が残らないので多めに算定することが常態化していた。それをしないと、“なぜやらないのか”と批判されました。他の医院でも、同じようなことをやっているのを見てきた」
 背景には歯科医の窮状がある。かつて、歯医者は高収入の職業の代表格だったが、今は見る影もない。
 1980年代に6万人程度だった歯科医が、国策で私大歯学部が相次いで新設された結果、2014年には10万人を超えた。一方で、国民一人当たりの虫歯本数は、1987年の9.5本から2011年は3.2本と約3分の1に激減している(15~19歳のデータ)。
 虫歯の減少は喜ばしいことのはずだが、歯医者にとっては、“メシのタネ”がなくなる死活問題であり、“ワーキングプア歯科医”なる言葉も生まれた。
 さらに、歯科クリニックの数は1996年の5万9357軒から2013年には6万8701軒となり、コンビニ(約5万1000軒)よりも多くなったが、日本の歯科全体の診療報酬は横ばいで推移している(2兆5430億円→2兆7368億円)。限られたパイを奪い合う“ゼロサムゲーム”状態が続き、倒産するクリニックが後を絶たない。
「歯科医が供給過多の状況下で、駅前の夜間営業に進出するなど患者の奪い合いが進んでいます。今年2月には、歯科医院を経営する秀真会(東京・調布市)が、負債総額5億8000万円で倒産しました」(帝国データバンク・阿部成伸副課長)
 歯医者の凋落は、歯科大、歯学部の動向からもわかる。大学の中で最も学費が高い私立歯科大は6年間で約3000万円が必要とされてきた。かつては高い学費を払っても開業すれば元を取れていたが、高収入を得られる歯科医が一握りになると、親にとっても高い学費を出すメリットがなくなった。
 そこで私立歯科大の中には、学費の大幅な値下げに踏み切るところも出てきた。松本歯科大学は6年間5000万円超と最も学費が高い歯科大(2008年度)だったが、現在は約1900万円になった。
 歯科医師の国家試験の合格率を見ると、昨年度の国公立を含めた全国トップの合格率は、私立の東京歯科大で94%だが、最も低い松本歯科大学は34%だった。大手予備校の作成した偏差値データを見ると私立歯学大の半数以上が50を切っている。患者としては、歯医者を目指す学生の“質”の変化は気がかりだ。
●レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年7月8日号

フェイスブックでこの週刊誌の記事について色々な意見 を見ることができました。
同業者からは非難の声が圧倒的多数。
一般の人からは、ちょっと的外れの意見、感想が多かったのでもう少し丁寧な説明が必要だと思います。

私個人としては、週刊誌の記事を読んではいないのですが概ね長尾先生のおっしゃることに頷いております。

私は長尾先生のようにはっきり言えないタイプなので、ものすごいオブラートに包んでこのブログで記してきましたが、この際便乗してしまいますね
端的に言えばこのようなことを言いたかったのです。

私自身も何軒かの歯科医院で勤務医をしたことがありますが、なんとなく同じです。

保険のルールを守ってなおかつ高度な歯科治療をすることは私自身不可能だと思っています。
保険で不正請求をして高度な歯科治療をすることも不可能だと思っています。
だいたい、不正請求をする歯医者が高度な治療ができるはずがないと思っています。
だから顕微鏡治療は自由診療しかできないのではないか、というのが自分の考えです。

週刊誌の記事だけでは全てを網羅しているわけではないので誤解も生まれるでしょう。
でも、どんな形でもちょっと考えてみるという機会はとても大事だと思います。

面白おかしく書いて雑誌を売るのも当然のことですが、歯科についての記事が多くの人の目に入れば良いことだなと思います。

保険治療は皆さんが驚くほどの制限治療です。
回数や治療費の上限まで制限されています。
歯周病の治療は歯の本数、回数を決められており、月の患者一人あたりの平均治療費も決められています。
これを超えると上位何%の歯医者は取り調べを受けます。
あまりの厳しい取り調べのため自殺をした歯医者さんもいるそうです。
膨らみ続ける医療費を削減するためには、歯科医療費は削られてもしょうがないのでしょうかね。

7万数千軒の過当競争の歯医者が、患者獲得のために多少保険のルールを逸脱したとしても、患者に迎合して「親切な優しい便利な歯医者さん」になることで地域一番歯科になれるのでしょうね。
治療費の予算も国が低く決めているのできちんとした治療はできていなくても、多くの歯は数年経ってから問題が出てくるので、歯磨き不足が原因と言われるかもしれませんね。
一番困るのは根の病気で痛みがひかない場合です。
「ウミが溜まると痛むので綿を詰めて開放して様子を見ましょう」という会話が聞こえてきそうです。
私の勤務医時代の経験です。

もしかしたらちょっとした不適切な請求が、意外と患者さんにとっては便利で有り難い部分になっていたのかもしれません。
しかし不正は不正なのでダメです。
だいぶ不便になってもルールを守らないといけないわけですよね。
ちゃんと明細書を見て確認しましょう。
ちなみに定期検診とか歯のクリーニングは保険適用外なので保険でやると不正請求になります。

私は長尾先生とは全く面識はありませんが、最近保険医療機関を辞めて自由診療のみの歯科医院になったそうです。
日本の土壌は医療は保険で安いのが当たり前なので、自由診療のみでは集患はたいへんでしょうから今回の週刊誌が良い宣伝効果をもたらすといいですね。

記事の終わりに歯科大学の偏差値が低く不安があることをサラッと書いていますね。
関連記事 「歯科医の受難」の本当の意味は「患者の受難」かも

こんなに不信感だらけの歯科医療にしてしまったのはもちろん歯医者の責任が大きいです。
しかし歯医者から変わるのを待っていたら一体いつになったら変われるのかわかりません。

「歯医者が悪いね」で止まってしまうのか、自分から行動するのか。