歯科医師の数だけ「患者さんのために」と思うポイントがあります。今回は歯科医師ではあまり経験をしないオールセラミックスクラウンの作製セミナーに参加しました。補綴物に関しての私の「患者さんのために」を記述します。

歯科医療の大事な目的の一つは、機能回復です。

虫歯などで失われた歯を人工物で冠や入れ歯やインプラントで噛めるようにします。

このような人工修復物を私たちは補綴物 ほてつぶつ と呼んでいます。

歯科医師が患者さんの歯を削り型採りをした型を歯科技工士にバトンタッチします。

これら補綴物は歯科技工士が作製します。

私は補綴の大学院にいましたが、そこの教室は大学院生でもおおいに臨床をしなさいという方針だったので、たくさんの経験をさせてもらいました。

患者さんの治療はもちろんのこと、その後の補綴物も自分で作っていたのです。

総義歯、部分義歯、クラウン、外科矯正のセットアップ模型、コーヌスクローネ、オルタードキャスト、前装冠など様々な補綴物を作製しました。

ただ、セラミックの築盛だけは歯科技工士にしか使わせてくれなかったので、それだけが経験したことがありませんでした。

ということで、今回は冠の作製で頻繁に使用するセラミック作製のセミナーを受講しました。

受講者10人中9人が歯科技工士で、歯科医師は私1人だけでした。

講師の先生は歯科技工士の溝口先生で、とてもわかりやすく教えていただきました。

一日で仕上げるのでなかなか忙しかったです。

私の完成品

今回のセミナーの目標到達点は、隣の歯の形態に調和させることでした。
模型なので色を隣の歯と合わすことはできないのですが、色の見本A3にできるだけ合わすようにセラミックを築盛しました。

細かいところを見ると色々至らない部分がありますが、初めてにしてはまあまあかな。

横から見たところ。

 前歯一本のケースは、隣の歯の色と合わすことがとても難しいのです。

セラミック冠は技術と知識が詰め込まれた芸術品でもあるわけです。決してセラミックという材料を私たちは売っているわけではありません。

新たに保険治療で大臼歯のCAD/CAMレジン冠が加わるようです。
いわゆる白い歯です。

すでに小臼歯は保険診療に入っております。

この治療は届け出をしている歯医者さんで治療を受けることができます。

このレジン冠はレジンのブロックを削り出しで作製します。 

大臼歯にレジンで大丈夫なのか。

確かに材料としての不安はあります。

しかしそれよりも、適合精度が全く良くないので 私は届け出をしていません。
正確に言えば、保険治療費内で満足できる適合精度を出すことが不可能なので届け出をしていません。

フェイスブックでもこの話題が取り上げられていたのですが、ある歯医者さんは患者さんのためにジルコニアを保険に入れるべきだ と、主張していました。
この歯医者さんは患者のために安く良い材料を使えるようにしたいと考えているようです。
患者さん思いの素晴らしい歯医者だと思います。

私の出発点はまず、「自分や家族にどういう治療をするか 」から始まりました。
その基準で患者さんの治療にあたっています。

そう考えれば考えるほど、どんな材料を使うかよりもどれほど高い技術で十分な時間をかけて治療するかの方が、とても大事なんだと考えるようになりました。

当院も自由診療でCAD/CAMでジルコニア冠治療を行なっています。
CAD/CAMで作製する場合は従来以上に支台歯形成(歯を削ること)の質が求められます。

ほんの少し乱れると、不適合な冠になってしまいます。
(写真は冠作製後の模型なので少し傷んでいます:マルチプルダイシステムなので、歯列模型はトリミングしていません。)

型取りをするまでに3〜4回来院してもらいきちんとした支台歯形成をしています(単冠)。

そこまでしても現在のCAD/CAM冠で満足できる精適合度を出すには、最後に優秀な歯科技工士の手を加えなければ実現できません。
ちなみに彼らに支払う技工代金(製作費)は、軽く保険治療で頂く治療費を超えてしまいます。
窓口で支払う金額ではなく、国で決めているクラウンの費用を軽く超えるのです。

「できるだけ安く簡単に保険でCAD/CAM冠治療をすることが患者さんのため」
という考えがあるのは当然のことです。

「できるだけきちんとした治療で歯を長持ちするために自由診療を勧めることも患者さんのため」
という考えも当然のことです。

患者さんが何を求めているのか

これに尽きます。

今、歯科医療では急速にデジタルが普及されつつあります。
デジタル化が進めば、特殊技術はあまり必要なくなりオートメーション化できます。

いずれオートメーション化されることで誰にでも均一で高品質、しかも安く提供できる日が来るかもしれません。

逆説的に言えば、現在は人間の手でアナログ的に手間をかけるため、技術費が高くなりがちです。
決して「セラミック」という材料が高いわけではないのです。

現段階ではデジタルよりも圧倒的にアナログ的な手作業の方が精度も色もレベルが高いのです。

今回実際にオールセラミック冠を作製してみて再確認をしたことは、我々歯科医師はもっと歯科技工士の仕事を知るべきだと思うし、もっとお互いに認識してほしい。パートナーなんだと。
彼らは私たちに遠慮しているんです。

私が開業しようとした時に聞いた話なのですが、ある歯科メーカーの経営コンサルタントが自費のセラミックなどの修復物の値段設定についてこう言ってました。
「配偶者に相談せずに使える金額はおよそ3万円なので、皆さん自費の料金設定はそれくらいにしてくださいねー。インレーは3万くらいでセラミッククラウンは5万くらいかなー」と。

皆さんは1本5万円のセラミックと1本十数万円のセラミックがあった場合、5万円のセラミックが良心的で十数万円のセラミックはボッタクリの悪徳歯医者だと思いますか?

もし良心的なセラミッククラウンを入れたにもかかわらず、困ったことが起こったら今度は値段だけを見るのではなくて、治療の本質に注目して歯科医師を選んでください。
そうしたら今まで良心的と思っていたものが悪徳で、悪徳と思っていたものが実は良心的だったということもあると思います。

人工物の歯を長持ちさせるには、現在の時点では費用はどうしてもかかってしまうのが現状です。