多くの患者さんは歯は大事だと考えています。

私達は患者さんの大事な歯の治療に関してきちんと説明できているのでしょうか。

いつも自問自答しています。

患者さんと歯科医師がお互いに、思い込みや固定観念をなるべく排除して、その歯について正しく情報を共有できているのか。

こんなことを考えながら日々の診療にあたっています。

患者さんは30代の女性。

1年6ヶ月前に虫歯だとわかっていた歯が欠けてしまいました。

症状は時々しみる。

治療前から、虫歯をとると神経が露出することが予想されました。

露髄(神経の露出)が予想されるので、ラバーダムが必須になります。

ばい菌の侵入を許してしまうと、神経を残す治療は成功しません。

歯の治療であればどんな治療においてもラバーダムの装着はとても有効です。

部位によってはどうしてもラバーダムを装着できない場合もありますが、なるべく唾液に触れないような配慮が必要になります。

顕微鏡治療の特色で一番の良いところは「見える」ことです。

しかし、条件としてミラーテクニックができる場合です。

顕微鏡+ミラーテクニックが合わさることで、「見ながら」治療ができ、虫歯の取り残しがなくなるのです。

どこまで歯を削るのかという指標の一つに、染色する方法があります。

簡単に言うと、染まる部分は虫歯だから削りとりましょうということです。

ただ、この染色液は虫歯と化学的に反応して染まるわけではありません。

虫歯になると、虫歯に接している歯はカルシウム成分などが抜け、構造が壊れてしまいスカスカになってしまいます。

染色液はただ単純にスカスカの部分に入り込むだけです。

物理的に入り込むだけなのです。

ですから、場合によってはもうこれ以上虫歯はない場合でも、状況によっては歯が染まってしまう場合があります。

除去しなくてはいけないのはあくまで虫歯菌という細菌なのですが、染色液は細菌を染め出すわけではありません。

ということは、現代の歯科治療というのは、厳密に言うと虫歯の治療で完全に虫歯菌を取り除くことは不可能だということです。

どこまで歯を削るかの判断は歯科医師ごとに違っています。

細菌がどこまで侵入しているのかを知る術がないので、念の為広く大きく削り取っておくという考え方をもっている歯科医師もいます。

どこまで歯を削るかのさじ加減は、歯科医師の経験や知識、技術によって幅があります。

私は染色液を参考にしますし、色、硬さ、症状、年齢、口腔衛生状態、患者さんの要望等色々なことを加味しながら判断しています。

顕微鏡とミラーテクニックを駆使すれば、奥まったところの虫歯も見つけ出しけずりとることができます。

見ながら治療するということは、器具の操作を自分の意志でコントロールできると言うことです。

コントロルできるので、だから隣の歯を誤切削してしまうことはありませんし、狙った虫歯を取り除くことができるのです。

予想していた通り露髄(神経の露出)しました。

この小さな穴が、体内へと通じる道の入口なのです。

だから無菌的な環境が必要なのでラバーダムが必要なのです。

露髄した場合、どのような歯髄(歯の神経)なら残せるのか。

未だ明確な基準というものはありません。

しかし、出血があり、歯髄表面が瑞々しく、しばらく置いておくと血が止まれば残せる可能性が高いのではないか、との報告はあります。

血が出る、ということは生きている証です。

歯髄から全く出血がなく干からびている場合は根管治療が必要になります。

歯髄の表面もハリが無くデロンとなっている場合も良くない状態です。

これらの判断も歯科医師の経験、知識、技術によって変わってしまうところです。

今回の歯髄は出血もあり、表面は瑞々しくしばらくすると出血もおさまりました。

露髄した表面を次亜塩素酸ナトリウムを使用してケミカルサージェリーをする場合があります。

今回は生理食塩水で洗浄しました。

この判断も色々な意見や考え方があるところです。

歯髄からの出血が収まりましたらMTAセメントで覆髄(露出した神経を保護すること)します。

MTAは現代の歯科治療に欠かせない材料になりました。

しかし、MTAさえ詰めれば神経を残せるわけではありません。

MTAを入れる直前までの一連の治療がとても大事なのです。

この日にレジン修復まで行う1回法や、後日行う2回法があります。

今回は2回法を選択しました。

折角残せた歯髄を長期間大事にするためには、その後の修復物がとても大事になります。

私が顕微鏡治療で最も得意とすることは「精密さ」です。

レジン修復で一般的に弱点とされるのは、歯と歯の間、隣接面です。

ここに段差や隙間があると虫歯の再発が心配になります。

折角残せた歯髄を危険に晒します。

今回の治療は虫歯の深度はありましたが、表面の面積はそれほど失わずに済んだのでレジン修復という小さな修復法が可能でした。

隣接面にフロスが通りやすくお手入れしやすいように辺縁隆線を賦形します。

隣接面歯頚部に全く段差や隙間のないレジン修復ができました。

これで再度この歯を大切にできるチャンスが生まれました。

きちんとお手入れができればきっと長期間もつと思います。

段差や隙間があるとお手入れができません。

神経を残す治療の治療費は35,000円、レジン修復は59,000円です。

神経を残す治療の修復物の役割はとても大事なことなので、これらはセットになります。

場合によってはクラウンになることもあります。

患者さんは、「自分にとって本当に必要なもの」と考え、この治療法を選択しました。

保険の治療に似たような治療で「覆髄」という処置があります。

治療費は数百円です。

どうしてこのような治療費の設定になったのか、その経緯は私にはまったくわかりません。

数百円の治療が本当に国民の歯の健康に役立っているのか、私個人の考えでは甚だ疑問をもっています。

保険の治療費で今回の治療の内容を行うのは、私には不可能です。

歯科医師が情報を発信してこなかったことと、国民の無関心がこの治療費に反映されているのだと思います。

どのような治療をうけるかの選択権は患者さんにあります。

もし、このブログを読んでくださり、この治療法が「自分にとって本当に必要なもの」とお感じになられたのなら、是非ご来院ください。