乳歯は永久歯を縮小したものではありません。
乳歯は特有の構造をしており、その役割は咀嚼を通して顎顔面の成長発達に関係し後継永久歯のために場所を確保するなど多岐に渡ります。

患児は小学五年生。
左下のEに虫歯があり近医にて治療を受けました。

虫歯は深かったものの神経までは進行していなかったという事でレジン修復をしたようです。

その後自発痛が出てきてしまい、顕微鏡治療を受けたいという事で来院されました。

来院した時の女の子の様子は痛みで憂鬱そうでした。

前医での治療内容を母親から聞いたところ、ラバーダムをしないで治療をしているようでした。
術前の予想では露髄に気づいておらず、ラバーダムをしていないので感染したか、唾液まみれの中レジン修復したので接着不良を起こし漏洩により感染したか、いずれにしても歯髄が感染し急性の炎症が起きているのだろうと予測をしていました。

治療の開始は麻酔から。

麻酔をした後、麻酔をしたの?という表情で女の子は全然痛くなかったと言って、少し安堵したような様子でした。

ラバーダムを装着し患歯を観察すると、遠心側にレジンが充填されていました。

レジンは白いので患者さんウケはいいかもしれませんが、術者の技術に左右される治療法です。
脱離しなくても接着不良で漏洩していれば、歯の奥底まで細菌が侵入します。

開口量が少ない環境でレジンの除去を慎重に行いました。
ミラーテクニックなら開口量が少なくてもなんとか見ながら治療できます。

口の中は前方からしか見れないので、遠心は見えないところになります。
遠心だろうが近心だろうが虫歯を除去していくと内側性の窩洞になるので、ミラーテクニック以外で見ながら治療する事は絶対に不可能です。

レジンを除去していくとやはり露髄していました。

乳歯の髄角は高い位置まで伸びていて、さらに細菌の侵入も早いので歯髄も壊死しやすいのです。

露髄部分を少し触ると排膿してきました。

う蝕検知液で染色します。

感染歯質がかなり残存しています。

このような除去すべきものをミラーテクニックなら見ながら確実に除去できます。

レジンはこの感染歯質の上に充填されていました。
それとも漏洩による感染なのか。
いずれにしても歯髄は細菌に対して敏感に反応します。

周囲の感染歯質を除去した後に歯髄へアプローチします。

歯冠部歯髄は血流もなく壊死していました。

深い虫歯であっても歯髄全部が壊死するわけではありません。

虫歯側の歯髄が壊死に陥り細菌が侵入しても、決して歯髄はやられっ放しではありません。
健気にも必死に食い止めようとします。


リクッチのエンドトントロジーより

虫歯側と反対側や根部歯髄に炎症が及んでいないこともあります。
そのような歯髄は、細菌さえ除去すればその後元気になります。

残る歯髄なのか残らない歯髄なのか、その見極めが術者によって微妙に異なります。

今回は根管口まで歯髄を除去し根部歯髄を残すことにしました。

MTAセメントで根管口を塞ぎグラスアイオノマーセメントで仮封をしました。

治療がうまくいくかどうかはこの後の封鎖が大きな影響を与えます。

1ヶ月後、症状は治療当日から全くなかったそうなので修復処置をしました。

このような一連の治療はとても大事なことですが、もっと大事なことは新たな虫歯を作らないことです。

そのためには知識が必要です。

治療と予防は2つで1つです。

顕微鏡治療治療費
乳歯生活歯髄切断:約6万円

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔