前回のブログで紹介した外科的歯内療法の患者さんのカルテを見返していたら左上6の治療もしていました。
問診の内容を見てみると色々と示唆に富む内容だったので紹介いたします。

10ヶ月ほど前に左上6の修復物が脱離したため近医を受診。
再装着をしたがナッツ類を噛むと咬合痛が強くなった。
再度近医を受診したが特に異常は見られず経過観察となったが咬合痛が強いため受診して中を開けてもらったら、神経に炎症が起こっていると言われMTAセメントを使用したが上手くいかず何度かやり直した。
その後本人の希望もありクラウンは避けて現在の修復物を装着するに至った。
いまだに咬合痛がある。

私ならまず一番最初に象牙質内のクラックを強く疑います。
もしその時に当院を受診していたら歯髄を無駄に除去しなくてもよかったかもしれません。

私は顕微鏡とミラーテクニックで死角でも拡大して細部を観察したり治療することができます。

肉眼治療をしている歯医者や、顕微鏡・ルーペを使用していても直視がどうのこうのとか言って死角を手探りで治療する歯医者さんとは見ている世界が違うのです。
多分解り合えないんじゃないかと思います。

当院が特殊なのかわかりませんが、咬合痛があって来院される方が多く、ほとんどと言っても良いほど象牙質内にクラックを認めます。
象牙質内にクラックがあると咬合するたびに亀裂が開いて歯髄を刺激します。

わずかなクラックという隙間に細菌がビッシリ入り込みます。

当院では咬合痛があって象牙質クラックを認めた場合、もう経過観察する段階ではなく積極的治療をする段階だと説明しています。

治療法はクラウンです。

健全エナメル質が、とか言っている場合ではなくて歯が残るかどうかのステージになっている事を認識してもらいます。

ほぼ100%の患者さんの経過は良好です。

多分他院では咬合痛の原因が見つけられないので当院に行き着くのかもしれません。

大事なエナメル質を犠牲にして歯を残すわけですから、装着するクラウンの適合はとても重要です。

診査時の左上6です。

少しでもエナメル質を残したいという気持ちはわかります。
それでも本当に必要な治療法を選択してもらうくらいの説得力のある説明ができる歯科医師は果たしてどれくらいいるのでしょうか。

透照診でクラックが認められます。

エナメル質にクラックがあるという事は確実ですが、これがどこまで伸展しているか修復物を除去してみないとわかりません。

修復物はレジン?のようなものだったので削り取ります。

除去していくとなんだか嫌な予感がしてきます。

なんでこんなに黒いのでしょうか。
治療当時出血のコントロールができていなかったのかな?

除去を進めていくと口蓋側にも象牙質にクラックを認めました。

患者さんはMTAセメントで治療したとおっしゃっていました。
歯医者さんが高いセメントを使うと経過が良くなるかもしれないと言ったそうです。
こんなもんです。
たまに根管治療の不具合が出て痛みがある人が、前医はヤブだったと言ってますが私はそれが日本の標準治療なんだと思っていますので決してヤブではないんだと思います。

私は前医の批判は全くしません。
したことがないです。
ただこれが日本の保険治療の現実なんだという事は説明します。

保険治療の延長線でMTAセメントを使ったって効果があるわけではありません。
顕微鏡もそうです。
保険治療の延長線で使用してもその効果は限定的です。

なんだかわからない状態になっていたので私基準で綺麗にしていきます。
処置中口蓋根から出血があり痛みがありました。
幸い根管歯髄は残せる可能性があるので私基準で綺麗にした後MTAセメントで覆髄しました。

後医は名医という言葉がありますので前医がここまで治療してくれたからということもあるかもしれませんが、同じMTAセメントを使用しても結果が大きく違います。

覆髄後特に症状はなかったので築造を行いクラウンの治療に入ります。

修復処置は100%顕微鏡とミラーテクニックのMotorized Microscope and Active Mirror Technique(三橋純先生提唱)で治療しています。
私はこの方法こそContemporary Microscopic Dentistryだと考えています。

形成する時は両手を使えないミラーテクニックでは精密さに欠ける、という直視の先生がいますが、私は手探りで見えないところを両手を使って形成したほうがよっぽど精密さから遠いと思いますが、皆様はどう思われますか?
素人だからわからないではなく、よく考えてみてください。
ちなみに私が依頼している歯科技工士は藤本研修会の講師でもある歯科技工にお願いしていますが、形成に関してはとても厳しくチェックされます。
特に今まで形成に関して注文された事はありませんし、マージンフィットも抜去歯で計測したことがありますが非常に精度の良いものでした。
これは実際に口の中で治療したものです。
残念ながら歯根破折で抜歯になった歯です。

特に隣接面の形成時は非常に高い割合で隣の歯を誤切削しています。
下の写真のように見ながら治療する事は今のところミラーテクニックができないと不可能です。

ツイッターの話ですがリツイートで見た面識のない先生でしたが、やはりミラーテクニックの必要性を感じているようでしたが、「下顎は難しいので割と直視です!でも結構いけます!」ですって。
本当に見える治療を経験していないのでこんな大それた事をいうのでしょう。
私からしたら手探りの治療をしているが全然平気!としか聞こえません。

手探りですよ!?
見えていないのに歯を削るんですよ!?

いいんですかそれで?

患者さんに真摯に向き合うのなら習得は大変でもミラーテクニックを身につけるべきです。

歯科医師の基本中の基本です。
これを抜きにしてとかく華やかな治療に目が向きがちですが、まず最初に身につける技術だと思います。

仮歯を装着し咬合痛がない事を確認して印象をします。

世の中の大事なものは大抵めんどくさいんだよ
宮崎駿監督の言葉です。

チマチマ細かい治療を毎日行っている。
息も詰まるような精密な治療。
私はあまり面倒だと思った事はないんですが、大事な事だから手が抜けないんです。
直視とか言っているのは最大級の手抜きだと思っています。
ごめんなさい!!笑

印象面の確認

口蓋側

遠心

近心

頬側

完成したクラウンは必ず模型上での適合を確認するのと、自分の形成の出来具合を確認しさらに技術の向上を目指しています。

口腔内での適合状態

クラウンを装着して1年3ヶ月経過していますが、悩まされていた咬合痛は一切出る事なく経過は良好です。

自分の職業でいうと自分のやり方は少数派です。

見えない治療が当たり前で、しかもそれが見えていないんだとさえわからない、そのような教育をされてきました。

この固定観念を変えるのは並大抵の事ではありません。

何かを変えるという事は莫大なエネルギーが必要なんですよね。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔