根管治療は歯内療法とも呼ばれ、文字通り歯根の内側の感染源を取り除く治療法です。
しかし内側からのアプローチだけでは対応しきれない事もあります。
そのような時は外科的な手法を用いる事で病状を改善できることがあります。
その手法を外科的歯内療法と呼んでいます。

患者さんは40代女性で右上の奥歯の不具合で来院しました。
頬側の歯肉にはサイナストラクト(膿の通路)ができていて排膿していました。
日本の保険治療で根管治療をした歯で、外国に住んでいた時に不具合になり外科的歯内療法を受けた経緯があり、近心頬側根にはアマルガムらしき物が逆根管充填されていました。

根尖孔外に異物も認められます。

コンベンショナルな根管治療で予後不良な場合は外科的歯内療法が有効な場合があります。
要はこれでダメなら諦めて抜歯をしましょうという段階にいるわけです。

おもて歯科医院では他院で抜歯を勧められた歯を随分と顕微鏡治療で根管治療しましたが、どういうわけか外科的歯内療法までいくことはほとんどありません。
過去に3例ほどありますが全て破折が絡む歯で、術前から予後不良であることは承知の上での治療でした。

一つの理由として私自身感じているのは、ミラーテクニックを修得しているので感染源を可及的に取り除けているからだと考えています。
上顎だろうが下顎だろうが。

さて、今回の患者さんは最後の手段である外科的歯内療法を行っても治っていないので抜歯になってしまうのでしょうか。

レントゲン写真を見てもまだまだ感染源の潜んでいるところは多そうだし、コンベンショナルな根管治療を行う余地がありそうです。
患者さんにはなるべく客観的に状況と治療法を説明し、費用と治療期間についても説明しました。

わかりやすく言うと費用と時間もかけたのに結果が悪くて抜歯になるかもしれないという可能性もあることも。

さらに今回は根管治療後は外科も前提に治療をする事も伝えました。

根管治療 約20万円
外科的歯内療法 約15万円
クラウン 約20万円
合計55万円の治療費です。

別の方法として抜歯してインプラントなどの治療法も説明しましたが患者さんは歯を残す治療法を選択しました。

私の何かを信じてくださり高額な治療費を支払って歯を残したいという患者さんに対して全力で治療をするのが自分の責務です。

まずはクラウンを除去しメタルコアを外すところから始めます。

律儀にも分割コアでした。
大臼歯の各根管にポストを入れようとするとポストそれぞれが三脚のように広がるので歯に入れられなくなります。
分割する事で装着が可能になります。
言い換えれば除去する時はドライバーでこじっても外れないと言う事です。
削り取らなければいけないのです。
ミラーテクニックが修得できていればそれほど難しいことではありません。
私は分割コアでなくてもフェルールを温存するためにほぼどの症例でもコアを削って除去します。
なるべく歯質を残すことは歯の経過にも影響します。

上顎でも下顎でもそのようにしています。
ミラーテクニックができない場合どうしているのでしょうか。
15年くらい前のミラーテクニックのミの字もできない自分はほぼ手探りでした。
まず見ながら治療できる箇所は本当に少なかったんだと思います。
私自身の歯の治療で手探りで治療されるのはまっぴらです。

でも何故か歯科界では「顕微鏡は直視でやります」と言うと歯医者受けが良いようです。
YouTubeにもそんな動画ばっかりです。

コア除去後

歯質を削らずメタルだけを削合したのでフェルールは最大限温存できました。
ここから選択的に感染歯質などを切削します。

その後レジンにて隔壁を設置します。

隔壁を設置することで根管治療中の漏洩をなるべく防ぎます。

CT上では近心頬側根に副根管があるのが確認できるのでMB2の探索を行います。
未治療の副根管内には感染物質がギッチリ詰まっているものと思います。

根管治療にCT画像はもうなくてはならないものになりました。
何年か前には根管治療にCTなんて大袈裟だし被曝の問題もあるので必要ないという考えが多かったと思います。
被曝線量の少ない歯科用CTといえども被曝には気をつけないといけないが、得られる情報は従来のレントゲン写真と比較すると雲泥の差(主観)です。

根管治療用ではなるべく照射野を狭くして被曝を少なくはしています。
そのお陰で未治療の副根管を探し出し清掃することができました。

治療中にファイルが破折しましたが普通に除去します。
根尖孔外の異物は術前から存在していたものです。

外科時にアマルガムを切削する時の切削片が飛び散らないように根管内から除去できればと思いましたがやはり除去できませんでした。

外科前提でも根管内の感染源は可及的に除去しなければいけません。

機械的・化学的なクリーニングをした後MTAセメントで根管充填します。

コンベンショナルな根管治療術中・術後で症状は消失していましたが予後の事を考えて予定通り外科的歯内療法を行いました。

頬側近心根の皮質骨は消失しており、歯根は斜めにカットされていました。

アマルガムはアンダーカットに充填されているので回転切削器具で削除しました。
アマルガム切削片をなるべく体内に残さないように治療の手順を工夫しながら治療を進めました。

クラックやイスムスの有無を確認し、見逃しが無いように十分チェックします。

不良肉芽組織を可及的に除去し、止血をした後MTAセメントで逆根管充填をしました。

最後に縫合をして終了です。

術後1週間抜糸時

術後の痛みと腫れは一切無し。
痛いとやりたく無いですよね。
なるべく低侵襲な外科処置を心がけていますし、顕微鏡歯科治療分野での次の課題は本当の意味での顕微鏡外科歯科治療だと考えています。

外科終了後6ヶ月のCT画像

根尖病変は消失しておりますが頬側の骨はまだ確認できていません。
奥隣の7の病変が気になります。

外科的歯内療法後6ヶ月後にジルコニアクラウン装着。
現在クラウン装着後1年を経過していますが経過は良好です。

現在通院中の患者さんが当院のブログをよくご覧になっているようで、先日「先生のブログは外科的歯内療法の記事が無いですよね」との会話がきっかけで今回この症例を紹介しました。

もしリクエストがあればお気軽に声をかけてください笑

私自身歯科治療の基礎的なことを患者さんにもっと知って欲しくて一般的な治療について取り上げてきました。

例えば歯の治療をするのに手探りで治療されているって知ってました?

顕微鏡を使っていたとしてもミラーテクニックが使えなければ手探り治療になっているって知ってました?

隣の歯を誤切削されて虫歯になるリスクが2.5倍に跳ね上がること知ってました?
しかも70%くらいの割合で誤切削されていることを知っていましたか?

保険根管治療の成功率がとても低いことを知っていましたか?

埋まっている親知らずを抜くのが必ずしも腫れたり痛んだりしないことを知っていましたか?

基本的な治療がきちんとできていればその後難症例になることが少なくなります。

この大事なことをもっと患者さんに知ってもらいたいために何年もの間ブログを書き続けてきました。

顕微鏡歯科治療費用は高いです。

ブランド物の時計やバック、海外旅行その他に費やすお金があるのなら自分の健康にも関心を持ってもらいたいと常々考えていました。
歯の健康の価値基準がとても低いのです。

このブログが気づきのきっかけになれば幸いです。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔