日本歯内療法学会には支部組織があり、その会が主催するセミナーは興味深いテーマを取り上げてくれるので毎回参加しています。
今回はアメリカに渡って根管治療専門医をされている先生のセミナーを受講しました。

2012年8月27日の投稿を加筆修正

日本歯内療法学会のサマーセミナーを受講しました。

講師はアメリカで歯内療法のトレーニングを受けた根管治療の専門医です。

日本の保険根管治療は先進国の歯科医師から嘲笑ものだそうです。
アメリカの大学の授業で教授が学生達に、
This is Japanese Endo.
これは日本で行なった根管治療です。
と、レントゲン写真のスライドを見せるのだそうです。
もちろん悪い見本として。

どうして器用で勤勉な日本人がこうなってしまうのでしょうか。

ちなみに治療費がこんなに違います。

日本の根管治療費 約9000円(保険治療なので皆さんが負担するのは3割の約3000円)

アメリカ  約18万円(有名な先生では40万円、インプラントくらいの治療費)

フィリピン  約7万2千円

マレーシア 約6万円

シンガポール 約7万2千円

だそうです。

日本の医療費は国が決めています。
東大とか難関大学を出た人達が決めています。
これで同じ仕事がをしろといわれても無理があるような。。。

特に日本の物価は高いので有名で、しかも歯科の機材は世界一高いのです。

どんな職種でもこのような状況なら質より量になってしまうのは自然なことだと思います。
ちなみにアメリカで根管治療を日本の治療費でお願いするとしたら3分はやってもらえそうです。
180000円÷60分=3000円/分
9000円÷3000円=3分

3分ってカップラーメンじゃないんだから
現実では現場はかなり無理をしています。

治療にかかる材料自体が特に高いわけではありませんが、治療にかかる時間だったり、技術を習得するための授業料だったり様々なコストはかかるとおもいます。

現在顕微鏡根管治療(マイクロエンド)が歯科医師の中でも行っているところも増えてきていますので、きちんとした根管治療を希望している患者さんにとっては受診できる機会が増えたことは喜ばしいことです。

根管治療は神経を取った歯を残すべく、最後の砦の治療です。

歯は一生ものとよくいいますが、少し費用がかかってもきちんとした治療をしたほうがよいと思います。

根管治療

虫歯におかされた歯を助けるための最後の砦 。

何度も再治療ができるものではありません。

再治療の度にどんどん治る可能性が低くなります。

 根の病気の原因は細菌です。

この細菌をどれだけ減らすことができるのかが成功のポイントです。

さらに、綺麗になった根の中を長年月維持するには、外から細菌が侵入してこないようなピタッとしたフタが必要です。

このフタの役目をするのが土台や冠です。

でも毎日隙間だらけの冠や土台を嫌という程、患者さんの口の中で見ています。
これが現実です。

患者さんの病気を治したいと強く熱く想う歯科医師であればあるほど、休日でも勉強をし、高い受講料を払って技術の研鑽に励んでいます。

しかし、そんな歯科医師を奈落の底へ突き落とすのが保険根管治療です。

ある患者さんの相談

現実、当院でも保険根管治療は歯科大病院に紹介することがあります。

治療費という制約の中で、大事な歯を残せる可能性を少しでも高めるのであれば、今のところ根管治療を保険でご希望の患者さんには歯科大病院に紹介することがあります。

もちろん歯科大学は教育機関なので新人歯科医師にあたることもあるのでしょうし、技術レベルも担当歯科医師によって差があるのも事実です。

それでも歯科大病院の方が歯を残せる可能性は高いと思います。

歯科大病院は治療費だけで運営されてるわけではなく、学生の授業料や国の補助金などの収入もあるので、比較的治療時間を確保できるからです。(そもそも、このように治療費以外の収入がなければ、保険根管治療の時間が確保できないというような保険の料金設定がおかしいと思うのですが)
大事な大前提として、歯科大病院で診察している多くの先生は無給です。
いわばこの多くの先生方の人件費は0円ですから。

このような事情があるから、為せる技なのです。

それでも最近は歯科大学も経営難からだんだんと時間の確保も難しくなってきています。

でもでもでも、それでも保険医療は絶対に必要です。
アメリカのような医療体制は反対です。

多くのかたに現実を知っていただいて、少しでも歯科医療について関心をもってほしいと思います。

世界を見渡せば、医療費は高いものです。
日本でも歯科医療に高い質を求めるならば、それなりの費用がかかるのは現実としてやむを得ないと思います。

『歯は一生もの』という言葉に異を唱える人は少ないと思いますが、優先順位はかなり低いと思います。

ロレックスの時計をもっていても歯には費用をかけられない。
シャネルのバックをもっていても歯には費用をかけられない。
ビトンの財布を持っていても歯には費用をかけられない。
パチンコで5万円すっても歯には費用をかけられない。
海外旅行に行っても歯には費用をかけられない。

まだまだ豊かな日本。
結局費用のことではなく、価値観だと思います。

歯の価値観は案外低いのです。

関連記事
顕微鏡根管治療(マイクロエンド)の予後について

歯内療法学会に参加して今後の根管治療の行方を考えてみる

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔