顕微鏡(マイクロスコープ)歯科治療は徐々にではあるが患者さんの認知度が高まりつつあります。
果たして顕微鏡歯科治療が日本の歯科治療の方法として根付くのか、患者さんから支持される治療法になるのか、を「医療制度」の視点から考えてみます。

 2012年1月20日の投稿を加筆修正

アメリカは軍事でも医療でも世界をリードしていますが、医療の実態や国民の医療に対する考えはどうなのか。
「ルポ・アメリカの医療破綻」を読んで みたので、日本の国民皆保険を外国と比較をしながら、私たちの日本の医療について一緒に考えてみましょう!

医療は国の制度によって大きな違いがあります。
アメリカでは公的な医療制度がないため多くの人が民間の保険会社に加入しますが、なんと四千六百万人のアメリカ人は保険に加入していないのです!!

医療とはいえ民間会社が利益を追求することは当然なのですが、『苛烈』の一言です。
民間保険会社が認定した医師で治療した場合のみ保険がおりるのですが、認定基準はとにかく治療費を安くあげることができる医師を選ぶことが最重要事項のようです。
治療内容の細かいことまで保険会社が指示するようです。

医療は市場原理主義にはあまりむかないのではないでしょうか。
社会主義国のように国が統制したほうが良いのでしょうか。

アメリカでもしばしば国民皆保険について議論するようですが、 1990年初頭、ビル・クリントンは医療保険改革法案を議会に提出し、国民皆保険を実現し、医療保険業界を大きく変えようと試みました。
全体としてはあまり乗り気じゃなかったようで、国民自身がどっち付かずの姿勢を取っていたのでこの法案は通りませんでした。
国民が国民皆保険を望まなっかたのです。

理由はいくつか挙げていましたがどうも医療においてお互いに助け合うという考えがアメリカ人には希薄なこと、国家が医療費に予算をまわしたくないという思惑があるというのが印象的でした。

自由の国アメリカでは国民皆保険を主張すると社会主義者と思われるようです。
このことは私自身非常に興味深く感じました。
日本の保険治療は費用はすべて国が決めているため、社会主義のような公定価格になっています。

医療費は毎年約1兆円増加し現在では約40兆円です。
そのうち歯科の占める割合は約7%の2兆7千億円です。


毎年増え続ける医療費をどうするのでしょか?

日本の保険制度はWHOからも高く評価されています。
しかしその実情は国民健康保険滞納者の急増、財源の不足、制度の老朽化など多くの問題を抱えています。
国民健康保険料を滞納しているのは461万世帯(2006年、19%)、実質的な無保険者が35万人(2007年)に達しています。

私たちは病気にならなくても健康保険料を所得に応じ支払っています。
健康に害があると承知しながらタバコをやめられない喫煙者が病気になっても、日本のお互いに助け合うという土壌では健康保険が適応されます。

しかも「国民」健康保険なのにわずか数ヶ月滞在すれば外国人まで面倒をみてあげるくらい優しい制度なんです。

いつ破綻してしまうのかひやひやしています。

現在低迷している日本で医療に焦点を当てた時、限られた財源の中でできることは優先順位を付けることなのではと思います。
なんと言っても命が大切ですので、疾病の重要度によって給付を変化させるのはどうなのでしょうか。
すでに歯科は現在そのようになっているのではないかと考えられるくらい理解不能な低保険点数になっています。
命とはあまり関係ないからなのでしょうか。
そもそも国民皆保険の理念は治療を受けることができずに、病気や怪我で仕事ができなくなり貧困にならないための救済としての制度なので、歯科はおまけみたいなものなのかもしれません。

アメリカは医療費は国民各自でなんとかするような方向なので、日本のように国家が膨らむ医療費に頭を悩ませる必要がないということです。
その分有効なお金の使い道があるなら、それはそれで良いのかもしれません。

皆さんは医療において、自由経済のアメリカ型と、社会主義医療の日本型のどちらを選びますか?

私なら医科であれば日本型を選びますが、歯科についてはアメリカ型と日本型の混合型を望みます。ずるい?

歯科治療は生命を救うというよりも、生活の質を向上させる分野なので、国民皆保険の理念を理解すれば、歯科は医療費の割り当てが少ないことに納得がいきます。

国民皆保険制度が施行された昭和30年代の日本はまだ貧しい国でした。
虫歯の洪水と言われた時代なので、短時間になるべく多くの患者さんをさばくのが保険歯科治療であり、朝から歯医者さんの前には患者の長蛇の列というのが日常の光景でした。

「歯科」についてはその当時の考えが21世紀の現在まで連綿と続いていますので、一人ひとりの要望に丁寧にお応えするのは適していないように思います。

「この日本スタイルをとっている国を私は他に知りません。一度に二人以上の患者さんを担当するというスタイルは、おそらく日本だけでしょう。
あと思いつくのは戦場ぐらいなものです。どうして日本がこのような独特なスタイルを取り入れるにいたったかは知りませんが、コストを下げて効率のよい診療を目指すという理念があったと思われます。そのおかげで日本の保険治療での歯科治療費はどこの国からみても異常と思えるほどの安さです。こんなことを言うと意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが事実です。」

タイで開業されている歯科医師の久米先生がご自身のブログでこのように日本の歯科医療について記述されています。

先進国の中でこのようなスタイルは日本独特のもので、患者さんの声をゆっくり聞くためのシステムではないように思います。
これが自由経済社会内の社会主義歯科医療の実態なんだと思います。

社会主義歯科医療の最大の良いところは、治療を受けられずに死亡する人がいないところです。
外国ではいるんです。
誰もが平等に歯科治療をいつでも、どこでも、安く受けることができます。これは世界に誇るべきことです。
ただし質の高い歯科治療を受けることは甚だ困難なことだと思います。

私自身勤務医時代はまさに野戦病院のようなところに勤めておりましたが、そのような医療に疑問を持つようになり質の高い医療をするにはどうすれば良いのか考え抜いて顕微鏡歯科治療にたどり着きました。

顕微鏡歯科治療は患者さん個々の悩み・声を聞いて、一人の患者さんに時間をきちんと確保して治療を行うので、アメリカ型の歯科医療が馴染みやすいのだと思います。

保険で顕微鏡治療をやっているという歯医者さんも多く目にしますが、どのように治療をしているのでしょうか。
不思議でなりません。
歯医者の過当競争を勝ち抜くためにそのように謳うのは、まあ何となく想像はできます。

多分この文章を最後まで目を通してくださる方の多くは、いま切実にきちんとした歯科治療を受けたいけど、どういうところに行けばいいんだろうと悩んでいるのだと思います。

歯は削ってしまうと元に戻せません。
後悔しないために本文が役にたてば良いのですが。

これからは日本の医療がTPPによりどのように変わるのか注目されると思いますが、医科は従来のままの社会主義的な保険医療が日本人のために良いように思います。

歯科はどのように変わったら良いのか悩むところですが、まずは現行の制度に加えて混合診療をうまく取り入れるのもいいのではないかと思います。
混合診療は保険治療と自由診療が混在するやり方で、現在は同時に行うことが禁じられています。

自分の国の医療制度を理解することで、自分が望む医療と受診する施設とのミスマッチが随分と減らせるのではないでしょうか。

これからの日本の医療制度をどのようにしていくのかは、私たちは常に関心を持って考えていかなくてはなりません。

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おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔