根管治療をした歯の不具合で多くの患者さんが当院の顕微鏡治療を受けに来られます。
近医で治せないと言われた歯はなかなかシビアです。
患者さんの最後の望みに応えるために知識と技術を向上させる義務が自分にはあります。
キーワードは顕微鏡とミラーテクニックです。
これが現代顕微鏡歯科治療の基本です。

患者さんは30代男性で房総半島の内房から令和2年9月来院されました。

右上の奥歯を2年前に治療した後最近になって不具合が出てしまい、近医で治療を行ったが不具合が改善されないため顕微鏡治療を受けに当院にいらっしゃいました。

当院の初診時では問診、視診とX線写真による画像診断を行い治療にかかる費用の概算と予後の予測について説明しています。
初診料は上記の事柄で27,500円です。
根管治療を行う場合は必ずCT撮影が必要です。
費用は16,500円。

CTは金属や根管充填材があるとハレーションを起こしてしまい正確な診断ができないことがあるので、撮影のタイミングとしては根管治療1回目が終了したときに撮影します。
根管治療費は概算で20数万円です。
患者さんによって破折ファイルの除去(治療用器具が根管内に破折して留置していつものを除去すること)、パーフォレーションリペア(人為的に歯の内部に穴を開けてしまったものを修復すること)などで費用が変化します。

根管治療が終了した後は精度の高いクラウン(被せる冠の事)を装着することが重要です。
費用は20万円ほどです。

歯を1本治療するのに根管治療をクラウン合わせて45万円ほど治療費がかかります。
当院のインプラントの治療費とほぼ同等かかります。

成功率は100%ではありません。
極論を言うと費用と時間をこれだけかけても抜歯しなければいけない時もあります。
上記の事をご理解いただいた上で治療をお引き受けいたします。

レントゲン上でパーフォレーションの疑いがあったのでその予後についての説明をしました。
パーフォレーションは新鮮であればあるほど経過は良好なのですが、年月が経っていると経過不良になる可能性が高まります。

治療を始める前に歯周検査をします。
パーフォレーション部と歯周ポケットが繋がっていると経過不良の可能性が高いのですが、深いポケットは今のところありませんでした。
もちろん麻酔をしてありますのでそこそこ強い力で調べています。

ラバーダムを装着した後仮封材を除去します。

当たり前の話ですが、当院の顕微鏡治療は手探りの顕微鏡治療ではないので見ながら治療することにより余計なところを削ることはありません。

仮封材の除去を進めるとカルシウム製剤の中に血液が混じったものが見え始めました。
パーフォレーションしたところをカルシウム製剤で貼薬していたのでしょう。

この穴は一体誰が開けたのでしょうか。

最初の歯医者なのか、それとも最近受けた歯医者なのか。

どうして穴を開けてしまうのでしょうか。

その理由の一つとして手探りで治療していることが挙げられます。

歯科大学の教育は、基本的にワンオペの治療を教えます。
だから歯医者が口の中を腰を曲げて覗き込み、溜まった水を吸引しながら歯を削ることが基本となっています。

驚くことにせっかく顕微鏡を使っても、腰を曲げなくなっただけで、直接口の中を見るものだから死角が全く見えない使い方をしている歯医者がとても多い。

私も日本顕微鏡歯科学会に認定指導医という立場柄、沢山の歯医者の症例動画を見る機会があります。

大多数がとても違和感のある、つまり顕微鏡で拡大はしているものの死角部分は手探りで治療しているものです。
それがすぐにパーフォレーションにつながる訳ではないのでしょうが、これほどまでに根が深い問題とは思いもよりませんでした。

いくら顕微鏡を使ったっとしても死角を手探りで治療したのでは治療の精度は落ちます。
私達のような歯科医療従事者はどれだけ見落としがないのか、どれだけ手を正確に動かす事ができるのかが生命線だと考えています。

そのためにはミラーテクニックは現代顕微鏡歯科治療には必須なものです。

なのに、認定指導医でさえミラーテクニックを軽視または扱う事ができない人もいます。

「直視で顕微鏡治療をしましょう!」と言っている歯医者さんは私は手探り治療を推進しています!と公言しているとしか聞こえません。

正直誰が何をしようと構わないのですが、学会の方向性としてどうしても顕微鏡治療で手探り治療を容認してはいけないと考えています。

でも肝心の学会がそのような先生をシンポジストにしたり講演の講師に選んでしまうんですよ。
確かに見習うべき点も多々あるのですが、私にとって一番譲れないところを軽視しているんですよね。

パーフォレーションは割と大きいようです。

レジンコアをある程度とったところです。

レジンコア除去のように歯の内部のレジンを全て取り除くということは、顕微鏡治療に必要な手技がギュッと詰まっています。

まず見ながら削る事。
レジンのように歯質と色が似ているものは見ながらでないと除去できないし、奥行きがあるため常にフォーカスを合わせる必要があります。

顕微鏡は私達の目のようなオートフォーカスはありません。
倍率を高くするとフォーカスが合う範囲が狭くなります。
ピントがずれているという事は見えていないことと一緒です。

顕微鏡にも沢山の機種があります。
現代顕微鏡歯科治療をするのであれば選択すべき顕微鏡の機種は限られています。

このことについては東京都下高井戸の三橋純先生が今春の日本顕微鏡歯科学会大会長記念講演で詳しく説明してくださいました。

また顕微鏡歯科治療に興味のある歯科医師はDoctorBookAcademyで今なら無料で「What’s Micro」という動画を無料で見る事ができますので是非視聴してみて下さい。

ここまで顕微鏡治療について洗練された内容は世界的にみても比類なき存在です。

反論の余地がないのです。

隔壁の設置にも接着についての知識や正確な手技が求められます。

パーフォレーション部に感染源が残存しないように物理・化学的に清掃を徹底します。
歯の外側、分岐部も可及的に器具が届く範囲は物理的に清掃します。
最低1回は水酸化カルシウを置きます。

各根管内のガッタパーチャポイントを除去します。
ガッタパーチャは多孔質のため細菌の住処になってしまうので、完全除去を目指します。

根管壁は凹凸があるので必ず器具で触れるようにします。
病変のあるリトリートメントでは触る事がとても大事だと思います。
これもミラーテクニックができるからこそその大事さに気づくのだと思います。
今回は上顎ですが下顎のミラーテクニックを苦手としている人は非常に多いです。
できなければ練習して身につける以外ありません。
それがプロフェッショナルというものでしょ。

第1回目の治療後にCTを撮影して細部の確認をします。

コロナル

サジタル

アキシャル

頬側根は根尖孔外にガッタパーチャポイントが浮遊しています。
最初から出ていたのか私が押し出してしまったのかはわかりませんが、できるだけ除去を試みます。

パーフォレーション部。

遠心頬側根のガッタパーチャ除去

近心頬側根のガッタパーチャ除去


近心頬側根はイスムスで繋がっていたのでイスムスを除去すると1つになりました。


パーフォレーション部を十分に清掃した後MTAセメントでリペアします。

頬側の根尖孔外のガッタパーチャ除去。
肉芽組織の中から上がってくることもしばしばあるので、根尖孔外だからといって諦める事はありません。

全てのことをやり尽くした後に根管充填をMTAセメントで行います。

根管充填X線写真

根管治療後6ヶ月

患者さんは根管治療直後から症状が軽くなり、恐る恐る噛んでいた歯が何も気にしないで噛む事ができています。

今のところ経過は良好ですが定期検診は必須です。

お見えになる患者さんの歯の状況はかなりヘビーな状態が多く、一番最初の治療がとても大事だということを痛感させられます。

瀕死の歯を救えることもありますが、何よりも小さな虫歯をその時きちんと治療しておく事が後々苦しまされる可能性を減らす事ができます。

私はカールツァイス社のOpmi PROergoとミラーテクニックによるActive Mirror Techniqueで確実性の高い顕微鏡歯科治療をおこなっています。
これは前述の三橋先生が提唱されている事です。

Active Mirror Techniqueによる顕微鏡治療こそが真の顕微鏡歯科治療と言えるでしょう。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔