インレー(歯の詰め物)とレジン修復のどちらを選ぶか

虫歯治療にはいくつかの方法があります。
日本の歯科治療においては、インレーかレジン修復が多くをしめると言っても過言ではないでしょう。

インレーとは、歯の部分的な被せものの事です。
レジン修復とは、硬質のプラスチックのような素材で歯を削ったあとを埋める治療です。

以前、ある医療ジャーナリストが、日本以外の歯科先進国ではレジン修復が主流なのを例にとり、メタルインレーを行う日本の保険の歯医者を批判しているのを耳にしたことがあります。

もちろん、どのような視点から見るかによって、この是非や意見も分かれると思いますが、今回のコラムでは、私の考えを述べていきたいと思います。

こちらの患者さんは歯科衛生士さんでした。
右下奥歯のインレー(歯の詰め物)がとれてしまったということで、当院に来院されました。歯科衛生士さんだったので、歯科の治療には詳しく、来院当時は、患者さんはレジン修復を希望されていました。

ここで、このような状態の場合、インレー(歯の詰め物)の治療とレジン修復のどちらがメリットが高いかについて比べながら解説していきたいと思います。

インレー(歯の詰め物)の治療の特長は、虫歯部分以外の健康な歯も、随分削らなければならない治療であることです。

それでも、適合がよくて予後が良ければまだ良いのですが、そうではない場合は大問題です。

被せた部分がうまく適合していないと、再び虫歯になったり(二次う蝕)、虫歯の取り残しが生じたり、脱離や歯の破折などが起こるリスクが高まります。これらの再治療が必要になった場合、次は、さらに大きく修復が必要になります。そのため、大きく削らなければならないので、小さなインレー(詰め物)で良かったものが、大きめのクラウン(被せもの)になってしまうこともしばしばあります。

よって、もしも、レジン修復で治療が可能な状態であれば、私は初めから、レジン修復の治療を行う方が良いと考えています。

レジン修復はインレーに比べると、健康な歯を削るのが少なくて済む治療法です。しかしながら、レジン修復は隣の歯と接する場合、正しい適合を得るのが非常に難しい修復法です。

それは、直接、口腔内で作業する治療なので肉眼だけでは見えないところがあるからです。

さらに、治療中に唾液などの水分と湿度をコントロールしないと、接着不良を起こします。その結果、虫歯の再発にも影響していきます。

つまり、レジン修復とは歯科医師の技術が顕著に表れる修復法なのです。

下記の写真は、レジン修復した歯が隣の歯とくっついてしまっている状態です。残念なことに、現在の日本における保険治療では、レジン修復治療後の患者さんの歯が、このような状態になっている事を目にします。なぜなのでしょうか?

日本の保険治療で精密なレジン修復は不可能

ここで、これらの治療費について触れておきたいと思います。
保険治療においては、レジン修復にかかる治療費は、3,110円ほどになります。3割負担の患者さんの場合には、支払う治療費は1,000円くらいでしょう。

世界をみまわしても、専門技術を持つ歯科医師が、非常に高度な修復法で行う治療を、3,110円でやりなさいという国は日本を置いてどこにもないでしょう。

精密なレジン修復は、保険治療では無理なのです。

例えば、今回の患者さんが当院でうけた自由診療での(顕微鏡精密レジン修復)治療費は約80,000円です。この差はいったい何だと思われますか?それは、歯科医師が患者さんに提供する治療の精度・技術にかかる費用です。

運良く、こちらの患者さんは歯科衛生士ということもあり、最初から自由診療で顕微鏡治療を希望して来られました。よくぞ、決断されたなと思います。

それでは、ここからは具体的な治療について解説していきましょう。

お口の中を診察すると、インレーが装着されている歯のほとんどに、すでにスライスカットが入れられていました。このスライスカットとは、隣の歯に面する部分を削る事で手早く「そこそこ」の適合を得られるインレーを作製する事ができるのだそうです。

このスライスカットは昭和50年頃に、大量の患者を手早く治療するために考案されたものと「手仕事の医療」に記載されていたと記憶しています。

実は、レジン修復をする際、このスライスカットが厄介な場合が多々あります。

インレーを専門に追求している歯科医師は、このスライスカットは絶対に入れないそうです。彼らは「そこそこ」の適合を求めていないからだそうです。

今回は、特にう蝕はなかったので歯の内面を綺麗にしてレジンを充填します。

スライスカットが入っているところを滑らかにし、適合が良くなるためにはどのような形態にすれば良いのかをイメージしながら行います。

マトリックスを設置して、隣接面歯肉側の適合を確認します。これでは適合の良いレジン修復ができないため、もう一度形態を修正しマトリックスを装着し直します。

今度は適合が良いのでバイタインリングをつけて充填の準備をします。

マトリックスを正確に位置付けることが、隣接面を含む窩洞のレジン修復の成功の要です。このマトリックには私が使用しているような弾力のあるものと、硬いメタルがあります。フレキシブルなマトリックの方が、多様な窩洞形態に適応しやすいので好んで使用しています。

気泡や死腔を作らないように正確にレジンを充填をします。

辺縁隆線はペーストレジンで賦形します。
ペーストの持つ適度なフローを利用して、丸みを上手く作ります。

咬合面もペーストレジンで賦形します。

隣接歯肉側の適合が良いレジン修復ができました。

自由診療の治療費は歯科医師の技術力にかかる費用です

ここまで、私の治療には「適合」という言葉が良くでてくることがお分かりでしょうか?

なぜ、適合が大事かというと、ここが不潔域だからです。

隣の歯と隣接している部分は、お手入れがしにくいところなので、ここに隙間や段差があるレジンだと、歯垢の溜まり場になり、虫歯の再発の危険性が高まってしまいます。

よって、より適合性の高いレジン修復にしないと、患者さんの歯の予後を悪くしてしまいます。

ここまで読んでいただいて、レジン修復はとてもテクニックセンシティブな治療法だということがお分かりいただけたでしょうか?
だから、歯科医師の技術力が直接表現される治療法だと、私は思うわけです。

話を冒頭にもどします。

あるジャーナリストが日本の歯科治療を批判していたという話に戻ります。

もちろん、海外の歯科治療と比較して、日本の歯科治療を批判することは、とても意義あることだとは思いますが、比較する場合の条件がかなり違うので、ある一面を取り挙げただけで「日本の歯医者はけしからん」という論調は、ちょっと首を傾げてしまいます。

なぜなら、このような記事では、お金のことにはあまり触れないからです。

例えば、前述したとおり、レジン修復費用である3,110円で、高度な技術力のレジン修復を行う歯科医師って、この世に存在すると思いますか?私は「皆無」だと思います。とうてい、その費用では、治療にかけられる時間も限られてしまいます。あっという間に赤字になってしまいますから。

その国々によって医療制度は異なります。

世界の中でも、特に安価に歯科治療を受けられる日本はすごい国だと思いますし、この国で保険治療で虫歯治療をするのであれば、インレーは立派な治療法だと思います。

しかし、国民皆保険制度とは、まだ日本が貧しい頃に、病気になっても治療を受けられず貧困になってしまう悪循環を断つという理念のもとに出来上がった保険制度です。国の豊かさや国民の生活水準なども、大きく変化してきた現代です。とりわけ、歯科治療においては、果たしてこの保険制度は国民の健康を守る上で、適した制度となっているでしょうか?

ですから、より現代的な歯科治療を希望する患者さんには、自信をもって自由診療をお勧めします。

もう一つ大事なことは、ミラーテクニックを修得している顕微鏡歯科医師を選ぶことです。
口の中で見えない多くの部分は死角です。
ミラーテクニックの技術がなければ拡大下の手探り治療になってしまい、顕微鏡使うメリットが激減してしまいます。
キーワードは「顕微鏡」と「ミラーテクニック」です。

最後に

私達、おもて歯科医院は材料を売る歯医者ではありません。
高い技術を持った歯科医師です。
材料が高いから治療費が高いのではありません。
技術力が高いから治療費が高いのです。

治療費,治療期間,主な副作用

費用:80,000〜100,000円 虫歯の形態による
治療期間:1回  1〜2時間
主な副作用:保険治療に比べて特に副作用や欠点はない。

執筆者情報

おもて歯科医院 表 茂稔

表 茂稔歯学博士/日本顕微鏡歯科学会認定指導医/顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔

〒279-0043 千葉県浦安市富士見1-11-29
TEL:047-354-8777

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