歯科治療の大部分は外科的な治療。
偶発症をゼロにすることは不可能だが可及的に少なくすることは可能だと思います。
本物の顕微鏡歯科治療なら。

3年ほど前に抜髄(神経を取る根の治療)をした歯の歯肉が腫れて、近医を受診したら歯に穴があいているので抜歯をするしか無いと言われた30代男性の患者さんが当院に受診されました。

歯医者が人為的にあけてしまった穴のことをパーフォレーションと言います。

たった今パーフォレーションしてしまった穴を適切な処置を行えばかなりの好成績で経過が良好になります。
しかし不適切な処置により数年経過してしまうと経過不良になる事が多いようです。

患者さん本人はできるだけ抜歯をせずに残したいという気持ちが強くありました。
まだ30代なので気持ちはよくわかります。

顕微鏡治療とはいえ成功率は100%ではない事を十分に伝え、例えば費用と時間を費やしたにもかかわらず残念な結果になってしまう事もあるかもしれない事を理解してもらい、それでも治療を希望するのであれば開始することになりました。

根管治療費 約25万円
クラウン  約23万円
計50万円ほどの費用がかかります。

おおよそインプラント1本分の費用です。

患者さんの選択としては、見込みが厳しいなら抜歯してインプラントという方法もありますが、患者さんは自分の歯の保存を希望しました。

当院は家電のような商品を売っているわけではなく、歯科医療を行なっているので保証というものは考えていません。

患者さん自身が自分の歯の治療法を選択するのです。
とても大事なことだと思います。

大抵の歯には詰め物やかぶせ物がしてあるので、それらを除去して実際に見てみると術前の予想を超える悪い状況に陥っている事もしばしばあります。
その場合治療方針を180度変更しなくてはいけないときもあります。

この患者さんの場合も実際に治療を開始するとパーフォレーションに加えて歯に亀裂が入っていました。

ポケットの交通はないが予後に不確定要素が更に加わりました。
この時点で患者さんに再度確認をします。
治療続行か治療方針を変更するか。

患者さんは現在の状況が致命的ではなく残せる可能性があるのなら治療を継続してほしいと希望しました。

私達は決して答えを急いで出させるようなことはしません。
日をおいてゆっくり考えて決断してもらいます。
決断に必要な情報はできる限り説明します。

どうして前医の歯医者はパーフォレーションをしてしまったのでしょうか。
大きな理由としては手探りの治療だったからなのではないでしょうか。

口の中は死角で見えないところだらけです。
ミラーテクニックという技術がなければほぼ勘で歯を削ります。
顕微鏡を使っている歯医者も同様です。

特に直視どうのこうのと言っている顕微鏡を使っている歯医者には少々首を傾げてしまいます。

見ながら治療を行うことが一番安全で精度が高くなることは自明の理です。

前医は近心舌側根管口を探すために盲目的にドリルで削り続けたのでしょう。

でもその歯医者にも同情するところが少しあります。
私が卒業したてで大学院生時代アルバイトに行っていた歯医者は、金儲け主義だと思われるから自費は勧めるな、という歯科医院で新米の私でも1日40人ほど治療をしていました。
患者さんは保険で治療してくれる良心的な歯科医院だと認識していたみたいで大人気の歯医者でした。
その当時は歯科治療に対して深く考えていなかったので、これが普通の歯科医院での仕事なんだあと、それぐらいにしか思っていませんでした。
きっと前医もこんな環境だったのかもしれません。

8時間労働で40人の治療だと一人当たり12分です。

今から考えると治療と呼べるものではないです。
その当時はそれでも一生懸命やってはいたんですけどね。

良心的ってどういう意味なんだろう。

私の歯科医師人生のスタートは歯科医師としての矜持とか技術とか知識とかは開業医からは学ぶ事ができませんでした。
しかし多くの患者さんは歯に対しての関心は薄く、ただただ安いことこそが正義で良心的なのだという認識を持っており、その価値観に善悪はないし歯科医院とのマッチングはとても重要だと気づけました。

コンビニより多くて7万件以上の似たような歯科医院が乱立しているので、こういう歯科医院があったほうが喜んでくれる患者さんが必ずいるはずです。

やってみないと治るかどうかわからないと言いつつも、引き受けた以上最良の結果を出したいのが医療人というものです。

歯の内部をきれいにしながら整理をしていくとパーフォレーション部が鮮明に姿を現しました。

本来あるはずの根管口はココですね。

経験・知識・技術は年齢と共に上がります(常に勉強していたらですよ)。
しかし目だけは見えなくなってきます。
今の私にとって顕微鏡がなければただの歯壊者になってしまいます。

以前からなのですが、他院で顕微鏡治療をしたけれども具合が悪いという事でお見えになる患者さんが一定数いらっしゃいます。

私は前医のことは一切お尋ねしませんし否定はしません、違いは説明しますが。
こちらからは何も尋ねませんが患者さんは色々お話ししてくれます。

同じ「顕微鏡歯科治療」というカテゴリーでも随分な違いがあります。
顕微鏡を覗けば自動的に治るわけではありません。
ラバーダムをしたから自動的に治るわけではありません。

何のための顕微鏡なのか。
自戒も込めて。

クラックの部分はスーパーボンドで接着しました。

手付かずだった根管を機械的に清掃し、ここだけ先に根管充填した後パーフォレーションリペアを行い他の根管を治療します。

パーフォレーション周囲の感染源を徹底的に除去した後MTAセメントでリペアしました。

根管洗浄を20分ほどして、

MTAセメントで根管充填。

根管充填時レントゲン写真

CTでの術前術後比較

根管治療後10ヶ月です。

骨が再生してきているので治癒傾向が認められます。

この歯にはパーフォレーションとクラックがあるので炎症と力のコントロールがとても大事ですが、これがなかなか難しいのです。
患者さんは治療後の歯茎の腫れや症状は一切ありません。

本当はこんなに重症になる前に適切な治療をしておくことが一番いいんですけどね。

簡単な治療なんてありません。

もし治療が必要な歯があったら費用はかかりますが最初から顕微鏡治療をする事をお勧めします。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔