2021
6/01
【抜歯したくない】歯科用顕微鏡を用いて抜歯を回避した再根管治療(歯の根っこの治療)、その後
- 2021.06.01
- 症例で見る顕微鏡歯科治療
- ミラーテクニック・ 抜歯・ 根管治療・ 顕微鏡歯科治療(マイクロスコープ)
わたしの考えとは異なるけど、儲かっている歯科医の話
以前、こんな本を読んだことがあります。
それは、歯科医院の経営本で、『歯科経営で年商1億円を目指す!』という本でした。年商1億円だと歯科医の所得は約2千万円ほどになるそうです。
歯科医師になるためにかかった時間、それにかけるお金の投資、医療訴訟などのリスク、経営者でもあり医療人でもあるという仕事の大変さなど、もろもろの苦労を考えたら、年商1億円目指し、2千万円の所得を手にいれたってバチは当たらないでしょ、そのためには何が必要なのかを教えますよという内容でした。
自分の技術に対して、患者さんからその対価をいただく。
もちろん、歯科医師として世界的に妥当と考えられている治療を行い、その対価として見合った治療費をいただくことに、いささかも後ろめたさを持っていません。
しかしながら、この本にとりあげられている年商1億円以上を達成した歯科医院の経験談には、わたしはあまり共感することができませんでした。なにしろ、そこには私の考えとは全く異なる考えの歯科医師の姿があったからです。
きっと、だから私は年商1億円を遥かに達成できない、くすぶった歯科医師なのかもしれません。(笑)(いささか、自虐的ではありますが)まあ、仮にそうであったとしても、自分の考えが間違っているとは思っていないのですが….
そこに掲載されている歯科医師は、こんな経験をしたそうです。
開業当初は自由診療を中心に歯科治療を行っていましたが、鳴かず飛ばずですぐに経営不振に陥ったそうです。多分、開業当時は、歯科治療に明確な理想があり志も持って取り組んでいたことでしょう。しかし、経営不振に陥ってしまえば、そんなことも言ってられなくなります。
背に腹は変えられません。
治療の方針を保険治療主体にシフトして、魅力あるキャッチコピーで広告をたくさん打ち出し、どんどん患者さんを取り込んでいくことに成功したそうです。そこにとりあげられている歯科医院は、とうとう歯科医院の増築をするまでに人気のある歯医者になっていきました。
いまも、とても儲かっているそうです。(これは本人が言っているんですよ。)
そんな彼の文章にこんな言葉がありました。
「自由診療で保険治療の5倍、10倍費用がかかったって、治療した歯が5倍10倍長持ちするわけではないんですよ、と患者さんに説明しています。」
ほう、私が考える自由診療とは随分異なりますが、ちょっとだけ新しい発見をしたような気持ちなりました。
以前、抜歯から救った患者さんの後日談
さて、話はかわって、こちらは当院にいらっしゃった患者さんのCT写真をご紹介いたします。治療前と、治療後1年4ヶ月が経過した際のCT写真です。
この症例は、すでに前回のブログでご紹介させていただいた患者さんです。(ブログ⇒【抜歯したくない】歯科用顕微鏡を用いて抜歯を回避した再根管治療(歯の根っこの治療))ブログにも書きましたが、こちらの患者さんは、保険治療の根管治療後に「抜歯せざるをえないでしょう」というギリギリの所まで追い込まれた方でした。なんとか抜歯せずに温存したいとのことで、当院にて治療をうけられました。
これは、治療した歯が「5倍、10倍長持ちするかしないか」などの話ではありません。
「抜歯するか(抜くか)抜かずに済むかの話です。
これは、とても大きな問題であり、重要な問題です。
いまでは、この患者さんは『抜かなければならない』という危機的な状態から脱し、良好に予後が経過しています。難しい治療ではありましたが、治療を担当した私自身も、心底嬉しく思っています。
今回の治療に関しては今のところ経過が良く、患者さんも喜んでくださりました。
もちろん、今後の予後についてはまだわかりませんが、患者さんの抜歯を少しでも先送りにしたいという希望にはなんとか応えられたと思います。
自分の歯をどうしたいか?は多種多様
『自分の歯』に対する価値観は、人それぞれでまちまちです。なので、歯に対しての価値観に良い悪いはありません。
しかしながら、①神経を取らずに済む、②隣在歯の誤切削をさされない、③後戻りができない硬組織の切削を見ながら治療するなど、患者さんにとって、メリットしかない治療方法の提案は、歯科医の技量でだいぶ変わると、私は考えています。
歯に対する価値観が多様であったとしても、それら価値観を構成しているのは、患者さんにもたらされる情報量です。なので、患者さんにもたらすメリットが高い情報を提供するのは、本来の歯科医師の仕事ではないのかと思っています。
そう考えると、歯科医師としての私の考え方は、前述した(成功した)歯科医師とは大きく異なると言わざるをえません。なぜなら、保険治療の現実は、決して私が考える良い治療とは言えないからです。私の家族に対して歯科治療を行うとしたら、保険治療の内容では到底できません。
しかし同時に、どうして自由診療の内容を保険の金額でできないのか?という問に答えなければなりません。
その問の答えはこうです。
保険治療で提示される費用では、安すぎて医院の経営ができなくなります。自由診療で行う治療に費やす時間、材料費、技工料、人件費、技術・知識研鑽費。これらを考えたら、これらすべてを保険治療料金で行ったら完全に赤字です。それこそ医院を維持できません。
なので、歯科治療費を安くする事に重きを置くなら保険治療をおすすめします。
費用が高くても最善の治療をご希望なら自由診療をおすすめします。
本当にこれだけの単純な話です。
エビデンスのある治療と歯科医の技量
あともう一つ、私の治療方針で大事にしている重要な事をお伝えしておきます。
それは、歯科治療には科学的根拠に基づいて治療すること、いわゆるエビデンスのある治療をすることが好ましいと考えていることです。エビデンスとは臨床研究による実証のことであり、患者さんの予後改善のために創られた研究です。
歯科治療のほとんどは歯科医師の手を使っての治療です。薬を飲んでいただいて治す訳ではありません。ですから、エビデンスと同時に歯科医師の技量も大事なのです。
よって、エビデンスは治療マニュアルではない事を念頭に置いておかなくてはいけないと思います。原著論文の研究の仕方によっては異なる結果になることも多々あります。むしろ忘れてはいけないのはエビデンス云々の前に自明の理というものがあるのかもしれませんね。
それは、私自身、歯科用顕微鏡でミラーテクニックを主体とした見ながら治療することで強く感じています。
例えば、根管治療。
根管治療は感染源の除去が最も重要となります。
ではこの感染源をどうやって除去するのでしょうか?手探りで除去するのと、ミラーテクニックで見ながら除去するのでは、どちらが確実性が高いのでしょうか?もちろん、いくらミラーテクニックで行っても湾曲したその先の根管は見えませんし、根尖孔外のバイオフィルムだって取れません。(根尖孔外に至っては歯内療法の範疇ではなく外科的歯内療法になるわけですが。)臨床とは不確かな要素がたくさんあり、患者さんごとに異なることは当たり前のことです。
しかしながら、歯科用顕微鏡で見ながら治療する基本中の基本でエビデンス云々ではなく自明の理なのです。。
それなのに、現在の歯科治療の現状では、見ながら治療する「直視直達」があまりにも軽視されがちであると感じています。
大切にしている私の治療方針
以上のことを踏まえ、ここからは私の治療方針について説明しておきたいと思います。
私は、治療に当たるときに以下の事を心がけています。
①私(術者)の経験
②理論
③エビデンス
④患者の意向・価値観
この4つをバランス良く統合する事を大切に考えています。これがEBM(Evidence Based Medicine)です。(臨床統計学からEBMの真実を読む 能登洋著より)
EBM実践に必要な要素は
①問診、診察の臨床的技能、コミュニケーション能力
②自分の能力・知識の限界への謙虚な認識
③自主的で継続的な生涯学習
④向上心および努力することへの熱意
(Lancet 2003より)
一本の原著論文でエビデンスがどうのこうのと論じることに意味があるとは感じていません。
おもて歯科医院では保険治療と自由診療を行っていますが、自由診療をご希望の患者さんは初診から自費になります。
これは保険の制度上そのようなルールであることと、EBMを実践するための自由診療に必要な問診、診査、説明などにどうしても時間が必要だからです。
おもて歯科医院では、費用は高いけれども他院では真似できないような治療を受けることが可能だと自信ををもって言えます。どうぞ、お気軽にご相談ください。
治療費,治療期間,主な副作用
治療期間:根管治療4〜5回 クラウン4回
主な副作用:副作用は特に思いつきませんがこれだけダメージのある歯なので歯根破折の心配はあります。
執筆者情報
おもて歯科医院 表 茂稔
歯学博士/日本顕微鏡歯科学会認定指導医/顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔
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