噛むと痛い。
もしかしたら歯にヒビが入っているのかもしれません。
ヒビが原因の咬合痛があれば、様子を見るといった悠長なことを言っていられないと思います。
噛むと痛い、咬合痛の原因はいくつか考えられます。
もし、歯にヒビが入って起こる咬合痛なら早めの対処が必要です。
破折歯の分類と治療法はAAE(アメリカ歯内療法学会)の分類を参考にしています。
2019年第16回日本顕微鏡歯科学会で発表した患者さんを参考に説明します。
一年ほど前から咬合痛がありました。
左下の奥歯にはレジンが充填されていました。
噛むタイミングや食品の性状によって、噛んだときにビリっとくる強い咬合痛があり、耐えられなくなり来院されました。
実はこの歯は7年ほど前に私がレジン修復を行いました。
その時にすでに象牙質のクラックは認識していました。
が、患者さんの希望でレジン修復を行いましたし、その当時の私も象牙質のクラックの恐ろしさをそれほど認識していませんでした。
AAEの分類のCRACKED TOOTHを疑い、楔応力検査、透照診、修復物を除去し拡大下で注意深く診査しました。
透照診
楔応力検査で咬合痛を認め、修復物除去後の透照診で象牙質に破折線を認めました。
Diagnosis test の結果、仮診断通りCRACKED TOOTHと診断しました。
治療法は咬頭を被覆する修復物の装着です。
日本人なら歯冠長の関係から全部被覆するクラウンを私は選択しています。
Prognosis(予後・経過)を見ると予後の見通しは不安定です。
10年以上前から顕微鏡治療で拡大下で診療している私の経験では、咬合痛が出た時点で治療を開始しても少しタイミングを逸している場合があるように感じています。
象牙質のクラックを認めたならば、症状がなくてもクラウンにした方が良いのではないかと感じています。
しかし最近では歯をなるべく削らないことが良いことだとだということが独り歩きしてしまって、大事なタイミングを失ってしまっているなと感じることが少なくありません。
AAEの分類をよく御覧ください。
エナメル質を残すとかの次元ではなく、歯を失うかどうかの次元に移っているのです。
それでも、咬合痛がでていてもクラウンにすることでかなりの効果が得られます。
今回の患者さんも歯を削って仮歯にしただけで効果は絶大でした。
歯質を削除していくと、クラックがより明瞭に観察できるようになりました。
咬合痛から開放され、食事のときにビクビクしながら食べなくても良くなったことを大変喜んでいました。
仮歯でしばらく経過を観察後ジルコニアクラウンを装着しました。
公益財団法人8020推進財団の平成30年の調査では、破折で歯を失う割合は17.8%でした。
同財団での平成17年の調査では11%でした。
この増加は、破折歯の増加も当然あると思いますが、拡大装置を使う歯医者が増えたことと「破折歯」という情報・知識が浸透し始めたため、今までは見落とされた破折歯がカウントされ始めたと考えられないでしょうか。
たぶん今後の調査では破折歯の数字はもっと増えるのではないかと思います。
余談ですが、厚生労働省の報告の中で「喪失リスクの高い歯」の中にクラウンが装着されてる歯とあります。
原文
喪失リスクの高い歯とは?
今までに行われた疫学研究をまとめますと、以下のような歯は喪失に至るリスクが高いことがわかっています。
未処置歯のむし歯
クラウン(冠)装着されている歯
部分義歯の針金がかかる歯(鈎歯)
歯周疾患が進行している歯
なおこのうち「クラウン(冠)装着されている歯」は、この治療法そのものが喪失を高めるということではありません。この治療が施された歯は、無髄歯(神経をとられた歯)である場合が多いため歯の根の先(根尖(こんせん)部)に病変が残っていたりする場合が多いためです。むし歯が進んで神経をとったり(抜髄)・根の治療(根管治療)が行われるようになると、歯は相当のダメージを受けたことになります。このような状態に至らないようにすることが、歯の喪失を防ぐうえで非常に重要といえます。
国立保健医療科学院 地域医療システム研究分野 統括研究官 安藤 雄一
きちんと注意書きして下さっていますが、神経をとるまでの虫歯にさせないことはもちろんのこと、もし根管治療が必要になったら費用はかかるかもしれないが顕微鏡治療できちんと根管治療をすることが歯の喪失を防ぐ一つの方法です。
私の治療実績としては今回の患者さんのように、神経のある歯で咬合痛のある歯、神経があり咬合痛はないが象牙質にクラックがありクラウン治療をした歯の数はそれなりにあります。
クラウンをすると歯が弱くならないか?
という質問をもらうことがありますが、クラックがある場合、繰り返しになりますが、歯を失うかどうかの局面に入り始めていることを自覚してください。
次に、たぶん一般的なクラウンは適合が悪いため二次齲蝕が頻発しているのだと思います。
もしくは根管治療の不具合でクラウンの撤去を混同してるのかもしれません。
私がクラウンの適合にこだわっているのは病気の再発をなるべく少なくするためです。
まとめると、クラックと咬合痛がある歯であれば、適合の良いクラウン治療をすることが現在の歯科医療では最良であると考えています。
そのためには間違った固定観念・思い込みによって治療のタイミングを逃さないようにして下さい。
医者の不養生をそのまま実践した私は、長い期間咬合痛と歯がしみる症状があったにもかかわらずそのままにし、ある時「バキッ」と音をたてて歯が割れました。
私の場合はFRACTURED CUSPでした。
咬合痛があった時点で早く治療に行けばよいのに仕事を理由に行かないでいたら歯髄炎になりました。
自己責任でとらなくてもよい神経をとることになってしまいました。
自分の積み重ねた知識や経験から、咬合痛を甘く見ていると自分に帰ってきます。
相当痛く。重く。
おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔