2018
10/09
インフォームドコンセント・チョイスで諦めずに神経を残すこと
- 2018.10.09
- ブログ歯記
- MTAセメント・ 虫歯・ 覆髄・ 顕微鏡歯科治療(マイクロスコープ)
「私はよくわからないので先生にお任せします」
私にとって難しい注文です。
今回の症例は患者さんとよく話し合って、大きな虫歯であるにもかかわらず神経(歯髄)を残す治療、断髄をしました。
患者さんは20代女性、患歯は左下の小臼歯です。
一ヶ月ほど前に痛みを感じていたようですが海外に短期留学をしていたので受診が遅れました。
患者さんの母親は歯科衛生士で、娘の虫歯は知っていたようです。
患者さんと母親に患歯の現状をできるだけ客観的・正確に説明しました。
局所麻酔をかけてからラバーダムを装着します。
麻酔針の刺入は可能な限り無痛になるよう努めています。
ラバーダムはおもて歯科医院ではルーティンワークです。
今回の治療で考えられるラバーダムのメリットは
・頬粘膜が排除されて視界が明瞭になる
・唾液の流入がないので細菌の侵入を防ぐことができる
・消毒液を使用しても粘膜が隠されているので安全
患歯は虫歯が深く露髄(神経の露出)の可能性が高いためラバーダム装着は必須です。
露髄するということは歯の内臓が露出するということです。
内臓が露出するのに雑菌だらけの環境で治療するわけにはいきません。
ミラーテクニックで「見ながら治療する」ことはおもて歯科医院の顕微鏡歯科治療では当たり前のことになっています。
患歯の虫歯の発症は歯と歯の間です。
患者さんは母親が勤めていた歯科医院で治療や検診を受けていたそうですが、やはり隣接部の虫歯は見つけにくいのだと思います。
虫歯の削除を始めると軟化象牙質(虫歯で柔らかくなった歯質)が多量に出てきました。
慎重に虫歯を除去していくとやがて歯髄が露出しましたが、軟化象牙質を除去し続けると最早点状露髄ではなく歯髄が露出しました。
術前に症状やレントゲン写真などから可能な限りのあり得ることとそれに対応する治療法を提示しています。
年齢、症状、患者さんの病状の理解度、歯髄温存の希望、継時的に予後が不良な場合根管治療になることへの理解等、総合的に判断して断髄法を選択しました。
歯髄のことを患者さんにわかりやすく説明するために便宜的に「神経」という言葉を使っていますが、歯髄は1本の神経繊維ではなく、複数の神経繊維、血管や結合組織などで構成されていて、歯髄の一部が虫歯にやられていたとしても虫歯から離れている部分は健康であることは知られています。
この治療法を選択するにあたって私が重要視しているのは患者さんの理解度です。
上の画像の歯髄の一部はトロンとして元気が無く出血もないので、さらに下部まで歯髄を切断していきます。
これくらいの下部でようやく出血と歯髄の瑞々しさが認められましたので、ここで断髄を終了しました。
「歯髄は最良の根管充填材である」という言葉は抜髄をするかどうかの診断を慎重にせよ、という先人たちの戒めの言葉ですが、この患者さんにとってこの状態で歯髄を残すことが幸せなのか、抜髄が適切ではないのか ーーー
目の前の断髄した歯髄の状態を五感をフル活用し温存できるのに足る状態なのか、思考をグルグルと巡らし、一つ一つのステップを確実に施術することに努めました。
MTAセメントを充填するにもその圧力をどれくらいにするのか、死腔ができないような操作、
断髄した表面を次亜塩素酸ナトリウムを使うのか否か。
この辺の微妙な力加減は講義で聞いただけではわからないことですし、消毒に至ってはした方が良いという意見もあれば生食だけにした方が良いという意見があります。
この後辺縁漏洩の無いようにしっかりと仮封をし、症状を確認してから後日レジン修復を行います。
症状は特にでていないことを確認し、冷診にも反応があったのでレジン修復を行いました。
ラバーダムを装着し仮封を除去して MTAセメントが硬化しているのを確認し、ラバーウェッジ方でレジン充填を行いました。
隣接面から大きな虫歯ができていたことから、可能な限り歯垢が停滞する要因を排除したいので、隣接歯肉側の適合精度はあげておきたいところです。
今のところ短期的な状態は良好ですが、長期的に良好になって初めてこの治療の価値が出てきます。
そのためには食生活の改善とプラークコントロールはしっかりとしておきたいところなので定期検診は欠かせません。
治療回数 2回
治療費用 断髄 約50000円 レジン修復53000円 税別
医療は不確実なものだと思います。
精一杯全力を尽くしても良い結果が得られるとは限りません。
当院は治療に関して今のところ保証、補償、保障はしておりません。
どうして歯科医療にだけ保証、補償、保障が求められるのかわかるような、わからないような気がします。
定期検診は必要だとわかっていてもついつい行かない患者さんは多いと思います。
そうだとしたら定期検診に必ず応じるという徹底した条件付きで保証、補償、保障を採用してもいいかなと考え始めています。
定期検診で健康意識が向上し健康につながれば、それはそれでいいことなのかなと思い始めています。
おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔