歯内療法学会関東支部で根管治療についての発表をしました。
学会発表した症例の患者さんは当院に受診するまで顕微鏡歯科治療のことは全くご存知ありませんでした。
顕微鏡治療は患者さんの考えを大きく変えました。

2015年3月17日の投稿を加筆修正

根管治療(根の治療)は毎年一年間で1000万本以上行われている一般的な治療です。

根管治療が成功しなければ次の治療法は抜歯です。

この患者さんは以前他院で根管治療を受けた後、噛んだ時の痛みと歯茎の腫れを何度も繰り返していました。
当院で顕微鏡根管治療(マイクロエンド)を行いました。
冠と土台を外したところです。

青く染まっているところは汚染しているところや低石灰化の部分で、完全に除去すべきところです。

また、未治療の根管もあります。

 皮肉なことに、本来の根管の形態を残していたのはこの未治療の根管のみで、治療されていた根管の内部はかなり壊されていました。
壊されている部分はレッジになっていて、本来の根管から逸脱していましたがレッジを除去して根尖付近の感染物質をできるだけ機械的にクリーニングしました。
機械的なクリーニングの後、ヒポクロで20分超音波洗浄し、根管充填はMTAセメントで行いました。
治療は全て顕微鏡下です。
当然ですがラバーダムは必須です。

治療時間は1回あたり1時間かけて3回ほどで根管治療を終えました。

このような症例は日常的な症例です。

私がかつて勤務していた歯科医院は1時間当たり6〜8人の予約患者さんを入れていました。
これは歯医者一人での話です。
一人当たり10分弱の時間配分です。
それでも時間通りには終わらないので、時間通りに来院した患者さんは1時間の待ち時間は当たり前。
多くの患者さんがイライラしながら治療の順番を待っていました。

この予約の取り方はキャンセルが出ても医院の経営に支障が出ないためのものだそうです。
ですから、患者さんも気軽に当日キャンセルや無断キャンセルができます。
とても人気のある歯医者さんでした。
自由診療を勧めずに何でも保険でやる良心的な歯医者さんということで人気があったようです。

野戦病院並みの短時間の治療とただただ数をこなす処置。
歯を治療しているのか悪くしているのかわからない毎日が続き、苦痛でたまりませんでした。

私も苦い経験をしてきたので、このような症例が日本中溢れているのはとてもよく理解できます。

自分の家族にしたい治療法は何かという観点でもう一度勉強し直した結果、顕微鏡治療にたどり着きました。
その一方で、人の価値観は多様だということも学びました。

誰もが費用をかけてまで顕微鏡治療を求めているわけではないのです。私が勤めていた上記のような一般的な歯医者さんの方が大人気なのです。
日本の歯科医療の主流の保険治療を選ぶことも自由診療の顕微鏡治療を選ぶことも自由に決めることができます。

年間1000万本以上の歯に行われれいる根管治療。
何割の歯を助けられるのでしょうか。
抜歯後はブリッジ?入れ歯?インプラント?

なぜ日本人はこのような歯の治療に甘んじるようになったのでしょうか。

ペンシルバニア大学の根管治療で著名な先生が、歯学生の講義で1枚のスライドを指差し
This is Japanese Endo.
と、おっしゃられたそうです。

これは日本の根管治療です、と。
反面教師の意味でです。学生に。

ご自身が知らずに歯科医療をうけると、否応がなくJapanese styleの歯科治療を受けることになります。
知って受けるのと、知らずに受けることの間には、医療においては大きな違いがあると私は考えています。
日本の現状を受け入れた上で私たちは何をしていけば良いのか、日々考え中です。

さて、現在根管治療の成功の基準は、4〜5年間で咬合痛などの自覚症状がなくレントゲン写真上でも問題がないことです。

この患者さんは治療後すぐに不快症状はとれて、術後3年4ヶ月では何も問題は出てきていません。

Japanese styleの赤ひげ的精神論で現在の歯科治療の基準を満たすのは、私は不可能だと考えています。

自由診療による顕微鏡治療では難症例と言われる根管治療でもかなりの割合で治すことが可能です。
私は今、顕微鏡治療をすることでやっと医療を行っていると実感しています。

ルールや規制などで窮屈な現在、有効な一手はあなたが『知る』という事だと思います。

*この症例は動画でもアップしていたと思うので興味がありましたらご覧ください。

後日談
平成30年9月現在この歯の経過は良好です。
治療後7年が経過しました。
奥歯の喪失は今後のことを考えるとなんとか避けたいものです。
私の考えではあまり短縮歯列は良い方法だとは思えません。

まだ7年しか経っていませんがこの先の見通しも良好だと感じます。それはこの患者さんはメインテナンスにもきちんと来てくださりますし、定期検診ごとにプラークコントロール、咬合のチェックなどを継続していますし、きちんと通院すれば私たちも患者さんのわずかな変化にも敏感に気づくことができるからです。

無事治療が終わってもメインテナンスで来院することはとても大事なことです。

治療した当時はまだCTを導入していませんでしたが、今では歯科用CTを導入し根管治療や親知らず抜歯、インプラントなどで活用しています。

CTがあることで3次元的に根管の走行が把握できるため、レッジや副根管があっても正確に治療ができるようになり、根管治療の成功率が上がったように思います。

今のところ術後の評価法は従来のデンタルX線写真によるものですが、今後はCTによる評価法も出てくるのではないでしょうか。

やはりCTは情報量が多いためデンタルX線写真ではわからないものが診断できるため非常に有効です。
ただ被曝に関しては最大の注意が必要です。

この患者さんの歯の多くはすでに治療をされているのですが、問題が山積です。少しづつでもいいから顕微鏡治療を受けたいということでゆっくりと経済的な負担も分散できるように治療進行中です。

患者さんはこの歯の顕微鏡治療をきっかけに当院で行なう治療は全て顕微鏡治療です。
その治療した歯の全ては保険治療をしてあった歯です。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔