技術の進歩は著しく、確実に私たちの生活を便利にしてくれます。
しかし、歯科医療について「最新の技術は最善か」となれば話は別です。この先の20年にはどのような技術革新が待っているのでしょうか。

              
2014年1月27日の投稿を加筆修正

私は大学院時代に、通産省の工業技術院産業技術融合領域研究所で実験をさせてもらいました。
今から20年前の話です。
 
一番最初に施設を見学させてもらった時とても印象に残っているのはCAD/CAMです。
その当時、物体をスキャンして削りだすというものを見たのは初めてで、記憶が正しければ球体をスキャンして削りだしたと思います。
スキャンするにもたいへん時間がかかったし、削りだしもかなり時間がかかりました。
出来上がった球体は北海道のお土産の木彫りの熊のような程度でした。

『これでクラウンなんかつくれたらいいね 』なんて話していたのも覚えているのですが、その時は到底無理だろうと思っていました。
セレックの売りの一つの『1dayトリートメント』なんて思いもつかないものでした。

それがたった15年足らずくらいかな?すでに歯科では実用化されているのです!! 
木彫りの熊からクラウンですよ!?

現在ではクラウンの適合精度がまだ自分には十分ではないと思っているので、個人的には多額な設備投資をしてまで導入するのはどうかな?とは考ているのですが、近いうちに確実にこちらにシフトするんだろうと思います。

さらに、私がお世話になった研究室は主に組織工学 、血管や骨、軟骨の研究をしておりました。

骨の再生に関わる物質にBMP(Bone Morphogenetic Protein)
というものがあるのですが、その時にはBMP単独ではそれほど骨誘導能は無く、何か他の成長因子の影響を受けないと骨誘導能は発揮されない(間違ってたらすみません)なんていう話をしていました。
BMPなんて、実験室で使うものというイメージであったのに、今では臨床で人間の体に使われているのには今更ながら驚きです。

私は顎関節の病態に興味があり、滑膜細胞におけるサイトカインとマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP’s)についてほんのちょこっと実験をしていました。

今ではDNA鑑定などで知られているPCRやRT-PCRなどの手法も 行なっていました。
全くの初心者で出来の悪い私を見捨てないで下さった主任の牛田多加志さんにたいへん感謝しております。
実験操作で解らないことを優しく教えてくださった古川克子さんにも感謝しております。
現在お二人は東京大学大学院教授、准教授として研究されており、陰ながらその活躍ぶりを喜んでおります。

その当時は学位取得のために目の前の論文を仕上げることが最大の目的だったのですが、最近では自分の治療の評価、生体は治療という介入でどのような反応をしているのだろうとか、顕微鏡下で治療した修復物の適合はどれほどのものなのかを確かめたくなる欲求が強くなってきています。

臨床で疑問に思うことを基礎研究で確かめたいと強く思うようになってきました。

いち開業医ではなかなか難しいですが、機会があればもう一度基礎研究をやってみたいです。

やってみたいという願望で終わらせてはダメなのですよね。
行動しないと。

現在の医療で注目を浴びているのは何と言っても再生医療です。
iPS細胞がどれだけ今後の医療の発展に重要なものなのか、こんな私にも理解ができます。

受精卵が細胞分裂をする時、ある期間の細胞はどんな組織の細胞にも分化できる幹細胞と呼ばれるものなのですが、人間の幹細胞の実験は倫理上許されるものではありません。

iPS細胞は普通の体細胞から人工的に幹細胞(様?)を作り出せるので倫理的にクリアできることが大変画期的なことなのです。

実はごく少数なのですがヒト個体にも幹細胞が存在はしています。
受精卵の幹細胞より分化の制限はありますが、これからの研究で注目を浴びています。

実は歯の神経(歯髄)にはこの体性幹細胞が豊富にあるのです。
すごく興味があり、ワクワクしちゃいません?

山中伸弥教授はノーベル賞をとったので当面の研究費は心配ないようですが、研究には多額のお金が必要なので、寄付を募っているようです。
寄付金を集めるために奔走しているなんてなんだか悲しいですね。

これだけ有名な研究者がお金集めに苦しんでいるのならば、他の研究者の苦労は並大抵ではないことがわかります。

アメリカの名門と言われる文系の大学では学生に分子生物学、分子遺伝学を勉強させるそうです。
彼らが政治家になった時、生物系の知識があるのでその研究分野に理解があるため予算がつきやすいようです。

日本ではどうでしょうか?
山中教授に洗濯機を送るか検討していた政党もありましたね

日本では研究資金を確保するにも大変ですがアメリカは資金が日本より集めやすい様です。
日本の優秀な人が海外に流出するのはとても残念です。
生きたお金の使い方をしてもらいたいものです。

これからの20年も確実に科学技術の進歩は目覚ましいものとなります。
私達はその恩恵を受けることができるのですから、彼らにほんの少しの協力でもできればいいな、と思っています。

20年後にはどの様な世の中になっているんでしょうね。
私は60代だ笑

機会があれば『歯の再生』についても書こうかと思います。
今後20年で歯の再生治療は実現可能になるのか

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔