「虫歯が大きいので神経を取りますね」と説明を受けた患者さんも多いはず。
顕微鏡治療なら虫歯が大きくても大事な神経を残せるかもしれません。
今回は覆髄といわれる治療法を紹介します。

患者さんは20代女性で右上の奥歯に大きな虫歯がありました。

彼女の人生はこれから60年以上続くわけですが、一生自分の歯で過ごすのであればなるべく神経(歯髄)を取らないでおきたいものです。

歯髄を残すということは、死にかけの歯髄を残すという意味ではありません。
死にかけの歯髄であればしっかりとした根管治療をしなければいけません。

患者さんには治療する前に、どうして虫歯ができてしまったのかを考えてもらいます。
病気にならないことが最善で、いくら治療がうまくいっても新たな病気ができたり、虫歯の再発があってはあまり意味がありません。

虫歯の原因は生活習慣にあり、食生活に起因している部分が大きいです。
できてしまった虫歯は最善の治療をすべきですが、治療することが最善なのではなく、予防が最善です。

麻酔をしてからラバーダムを装着します。
麻酔は痛くしないようにいつも気を配っています。
その結果、ほとんどの患者さんに全く痛くなかったと言ってもらえます。

おもて歯科医院では根管治療と修復治療にはラバーダムを装着します。

特に今回は虫歯が大きく歯髄が露出(露髄)する可能性が高いので、ラバーダムは必須だと考えています。

歯の構造にエナメル質、象牙質、セメント質がありますが、発生の由来からみるとエナメル質は皮膚、象牙質とセメント質は内臓と捉えることもできます。

口の中は雑菌だらけで、大便中の細菌数より多いとも言われています。

歯髄はまさに歯の内臓と言っても良いと思いますので、ラバーダムはするべきです。
歯と歯の間に虫歯がありますが、このような場所の虫歯は見つけにくい特徴があります。
ちなみにこの歯にはしみる、痛いといったような自覚症状はありませんでした。

見ながら治療することがどれだけ大事なことなのかは繰り返し述べてきましたが、いくら拡大装置を使っても死角があれば手探りになるのであれば肉眼治療とさほど変わりません。

虫歯を取り残さないことと隣の歯を削らないことが大事です。

症状も無く一見すると虫歯がないように見えても虫歯の進行はかなり進んでいました。
今回のケースではレントゲン写真にも写っていましたが、写らなくても大きな虫歯があることは多数経験しています。

虫歯の除去には必ず齲蝕検知液という虫歯を染め出す液を使っています。

色は数種類ありますがブルーを使っています。

虫歯を取る基準はいくつかありますが、この齲蝕検知液もその基準の一つですので、何種類かの判断法と組み合わせて歯科医師が判断してどこまで削除するのか決めます。

ですから術者によって微妙に削除する範囲は変わってきます。

齲蝕検知液で染まっているところは全て削除しました。
染まるところ以外に硬さも参考にします。
色は迷うところです。
齲蝕検知液に染まらないが若干茶色で硬さもある場合は迷います。
この基準は今のところ学術的に曖昧なのです。
最近の考え方には、虫歯の細菌はより深部に侵入していることがわかり始めているので、このような着色を完全に取り切るという考え方もあります。

虫歯を取りきると露髄しましたが、
・自覚症状がないこと
・出血があること
・歯髄の色が健康であること
から覆髄で歯髄を温存することにしました。

ここの基準も今のところはっきりとした基準はありません。

根管治療の大学教授は「歯髄がピチピチしている」という表現を使います。

これは顕微鏡を使っている歯科医師に見える世界なんだと思います。

顕微鏡を使っていない先生とは見ているものが違うので共通言語がないんです。

患者さんには術後の痛みや経年的な変化で歯髄の失活(死んでしまうこと)が認められたら根管治療が必要であることを十分説明しました。
ここで一番の注意点は、これでしばらく来なくなってしまうのが一番いけないんだよと伝えています。
定期的に歯髄の生死を確認しなくてはいけません。

MTAセメントで覆髄した後レジン修復をします。
今回は2回法なので一度仮封して症状を確認して別の日にレジン修復をしています。

隣接歯茎部の適合は歯垢の付着に大きく関与しますので、ラバーウェッジ法でレジン修復を行います。
レジン修復に用いる接着剤(ボンディングレジン)は日本の製品は世界をリードしており、特にメガボンドという商品は非常に定評があります。

新作のボンディングレジンの性能試験でコントロールによく使われている商品です。

レジン修復は非常にテクニックセンシティブと言われる治療法で、接着操作によって接着力やコントラクションギャップ(歯とレジンの間にできる微小な隙間)に違いができてしまいます。

その性能を左右する因子の一つに防湿があります。
私にとって唾液にまみれたレジン修復はちょっと考えられません。

レジンの研究開発をしている技術者に聞いてみたところ、ラバーダムはした方が良いという見識でした。

咬合面にはペースト状のレジンで小窩裂溝を作り、食物が逃げやすくする遁路を形成しなるべく咬合圧が軽減されるようにします。

不潔域とされる隣接歯茎部のレジンの適合は良好です。
普通にデンタルフロスをすれば清掃ができる形態です。

現在定期検診を継続中ですが特に問題は出てきていません。
長期的に良好であることに価値があるので、これからも注意深く経過を観察する必要があります。
治療回数2回
費用 覆髄35000円 レジン修復53000円 税別

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おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔