2022
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回復への兆し
- 2022.01.26
- ブログ歯記
- MTAセメント・ ミラーテクニック・ 顕微鏡歯科治療(マイクロスコープ)
20代後半の女性。
2年ほど前酔っ払って階段から転落して足を骨折、多くの歯が損傷を受けました。
無断キャンセルをしたことがない患者さんなので、お見えにならないため心配で電話をしても繋がらず。
怪我前のレントゲン写真
数日後松葉杖をつきながら治療の予約の取り直しとキャンセルしたことを謝りにいらっしゃいました。
その時の包帯グルグルの状態を見て私たちはビックリしたのを今でも覚えています。
若い女性が痛々しい状態でしかも歯も多数折れていました。
一本だけ抜歯を免れない状態でしたが他の歯は根管治療をすれば温存できそうな状態でした。
これからまだ60年くらい使う歯なので治療の方向性と費用の説明をしました。
私は保険治療では真っ当な治療はできないと考えていますので、自由診療である当院の顕微鏡治療を提案しましたが治療費は高額です。
患者さんと話し合った結果、歯科大学病院で治療してもらうことになりました。
それから数ヶ月後。
どのような理由かわかりませんが、左下の治療をご希望で来院されました。
右下は第一大臼歯を抜歯して親知らずを移植してあり、第二大臼歯は根管治療をしてクラウンが装着されていました。
具合はあまり良くないとのことでした。
左下は咬合痛と頑固な沁みのある歯と亀裂が歯髄にまで及んでいる歯の根管治療とクラウンを装着しました。
その後の経過は良好です。
左下の治療を肌で感じて大学病院とは違うと思ったのかどうか定かではありませんが、その後右下7の根管治療を希望されました。
その時には右下4、6(移植した親知らず)、7にサイナストラクト(膿の排出口)ができていました。
右下6、7のレントゲン写真
右下4のレントゲン写真
サイナストラクトにガッタパーチャを挿入して膿の出所を確認します。
4は何か破折してしまっているのでしょうか。
まずはコンベンショナルな根管治療をして、経過が悪かったら外科的なアプローチをすることにしました。
右下7の根管治療は再々治療になります。
皆さんは大学病院にどのようなイメージをお持ちですか?
根管治療の専門医にどのようなイメージをお持ちですか?
私は特にこれといった専門はなくただの個人開業歯科医師です。
ただ、他の歯科医師と違うところは「見ながら顕微鏡歯科治療ができる」。
これだけです。
クラウンを外してレジンコアを除去します。
レジンコアの除去も顕微鏡で見ながら除去します。
そうする事でフェルールを最大限温存する事ができます。
フェルールはクラウンの予後を大きく左右しますし、根管治療後の歯にはとても大事なものだと考えています。
どうしてこんな事をわざわざ書くのかというと、現在の、たとえ顕微鏡を使っているという歯医者でも死角は手探りで治療しているからです。
死角はミラーテクニックが習得できていなければ決して見ながら治療することはできません。
歯医者は自分が見えていないことに気づいていません。
ミラーテクニックを習得するには練習を積む以外ありませんが、その必要性を本質的に理解していないので精密な治療を謳っているのに手探りの顕微鏡治療をしている歯医者さんが多くいます。
十数年日本顕微鏡歯科学会に携わってきてそう感じています。
レジンコアを除去すると舌側の歯質がかなり失われて生物学的幅径を侵害していました。
生物学的幅径は歯と歯肉の位置関係で歯肉と歯の付着量を表しており、今まではbiologic widthと呼ばれていましたが現在はsupracrestal tissue attachmentと呼ばれるようになりました。
1本の歯を通して長期的な経過の事を考える事ができる一般歯科はとてもやりがいのある仕事です。
これが何かの専門医にならない理由なのかもしれません。
根管治療を行うために隔壁を設置します。
隔壁を設置する事でラバーダムをかける事ができます。
ラバーダムをするかしないかの議論はもういいです。
各自好きにすれば良いと思います。
根管内にある人工物は全て除去しますので根尖付近やイスムス、フィンに入り込んだガッタパーチャを除去します。
2度根管治療して具合が悪いのは、必ずその原因が根管内に残存しているわけです。
これをミラーで見えたとしても治療するときは手探りだったら、果たしてうまくいくのでしょうか。
ただ見る事と、見ながら治療することは別物なくらい困難さが違います。
特に下顎は。
近心舌側根は未治療でした。
見逃した根管内には無数の細菌が生息しています。
くどいようですが私は根管治療専門医ではありません。
見ながら顕微鏡歯科治療ができるただの開業歯科医師です。
症状は治療後間もなく軽快し根管充填を行いました。
根管充填
根管治療が終わったら機能回復のためにクラウンの作製にはいります。
築造をして仮歯を装着しますが、臨床的歯冠長が足りない事と舌側の生物学的幅径を改善するため歯冠長延長術を行いました。
仮歯の調整をしながら歯肉の回復を待ちます。
その後順調に回復しましたが、いよいよ移植した親知らずがダメになってしまったため、インプラント治療の準備をするためレントゲンで診査しました。
CTも撮影したので右下4と7の経過も確認しました。
右下7術前
右下7術後
右下4術前
右下4術後
病変は縮小傾向なので今のところ経過は良好ですが、破片のような物が今後どのように変化していくかわからないので注意が必要です。
とりあえず今回は外科処置は避ける事ができました。
まだまだ要治療歯がありますが一歩一歩着実に回復しています。
見えないものは何度やっても原因は見えません。
手探りの治療を何度やっても原因を除去できません。
少しでもこれらを改善するために顕微鏡があるのだと考えています。
今春第18回日本顕微鏡歯科学会最終日、大会長受賞記念講演で30分プレゼンをします。
顕微鏡で見ながら行う治療、直視直逹について発表します。
治療費 奥歯一本あたり
顕微鏡根管治療 約20万円 回数 3〜5回くらい
ジルコニアクラウン 約20万円 回数 4〜5回
おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔