おもて歯科医院が顕微鏡歯科治療を行い始めて10数年が経過します。

それまでは一般の歯科医院と同様の手探りの治療で、特別疑問は感じていませんでした。

顕微鏡歯科治療をすることで今までの自分の歯科治療とは何だったのだろうかと愕然たる思いだったのを鮮明に記憶しています。

同時に保険治療では最善の治療は行えないということと、小さなものを拡大する大事さ、ミラーテクニックで見ながら治療する重要性に気づきました。
この大事なことに気づいた事は私の残された現役生活を考える上でとても良かったと心の底から感じています。

普段の顕微鏡歯科治療の中で全てが従来の方法とは比べる事が出来ないくらい価値あるものと考えていますが、今回は歯の「亀裂」にスポットをあてたいと思います。

それは何故なのか。

これは歯を拡大してきちんと状況把握できるのと患者さんのお話をよく聞いてきちんと納得できる説明ができるのは、歯医者が多いと言われている日本において数少ない歯科医院であるおもて歯科医院の特徴だからだと考えているからです。

亀裂に関する不具合は患者さん自身が初めて聞く事柄であり、他の歯医者さんもあまり亀裂に関してご存じないようで、不適切な処置を施されているのも散見していることから当院の存在はそれだけでも貴重な存在だと手前味噌ながらそう考えています。

亀裂に対する対処法は顕微鏡歯科治療を取り入れた直後から始まりました。

ある患者さんがきっかけで現在の考えに至りました。

60代の女性で右上の歯がなんとなくおかしく、少ししみる時があるとのことでした。
しかし金属のインレーが装着されている以外は特別おかしなところはなく経過観察をすることにしました。
しかしそれから日もおかずやっぱりおかしい、噛むとちょっと変な時があるとのことで来院されました。
しかし何度見ても特段異常は見当たりませんでしたので、どうしても気になるのであればインレーを外して中を確認しましょうか、とお聞きしたところ是非そうしてくれとのことでした。

その当時はすでに顕微鏡を使用していましたが知識がなかったので見えていなかったのでしょうね。
インレーを外すと歯が破折していました。
幸い致命傷には至らなかったのでクラウンを装着しましたが効果は覿面でした。
あれから10年ほど経ちますが現在でも問題ありません。
この事がきっかけで亀裂の入った歯の対処法を真剣に考えるようになりました。

虫歯でもないのにしみる、咬合痛がある、何だかおかしいという症状は亀裂を疑い、慎重に歯を診査しています。

現在健康な歯を削らない歯医者が良い歯医者と言われています。
中程度の虫歯なら大いに同意します。

しかし象牙質にクラックが入っている場合、もはや健康な歯質をどうのこうの言っている場合ではなく、歯を失いたくないなら速やかにクラウンにした方が良いのだと考えています。

2020年に栃木県の神山卓久先生が「走査電子顕微鏡で旅する口腔のミクロな世界」という本を執筆されました。

この本の第4章に「亀裂・破折のミクロな世界」というパートがあります。
この本を読んで確信に変わりました。

現在でもクラウンは根管治療後に行われる事が多く、生活歯(神経のある歯)に対してクラウン治療をする歯医者はあまりいないように思います。

考えられる理由として原因不明の不快症状が実はクラックが原因だということを見つけられないこと、知識がないこと。
仮に亀裂があったとしても患者さんに納得いく説明ができないこと、その手段がないこと。
歯を削らないことを主張することで良い歯医者さんに映ることなどが考えられます。

日本口腔顔面痛学会雑誌に掲載されている「原因不明による紹介患者の歯原性疾患に関する臨床統計」という原著論文に紹介元で原因不明とされたが、実際の診断が歯に原因があった症例について検討しています。
この研究では22例中8例に生活歯の歯冠の亀裂によるものであった。
この研究では神山先生の論文が引用されており、歯冠の亀裂によるものは早期診断が予後との関連性が強いと考察している。

歯冠の亀裂は幅60μm以上で肉眼で観察できるようです。
それ以下の幅では確認できませんが、顕微鏡であればもっと幅の狭いうちに見つけ出す事が可能だと思います。

亀裂の中には細菌がギッシリ詰まっており、経時的(数ヶ月単位)に亀裂は幅は広くなり深部まで伸長します。

最初は2μm程度であった亀裂はやがて幅が広くなり咬合痛や冷水痛を呈する「亀裂歯症候群」とされる症状が発生します。

患者さんはこの症状がこれほど重大なものとは考えていません。

亀裂歯症候群に対して現在のところクラウンによる治療が大変有効です。
私は症状がなくても象牙質にクラックを認めたならばクラウンをお勧めしています。

エナメル質という歯の鎧を削除することと引き換えにクラウンを装着して抜歯や抜髄を阻止するわけですから適合精度の良いクラウンの追求は至極当然のことです。
だから自由診療でしかできないのです。

亀裂歯症候群の歯を被覆するとその効果は顕著に現れます。
仮歯にしただけで今までの症状が消失します。

たまにだいぶ楽になったけどまだちょっと変な感じがするという患者さんがいます。

以前は仮歯で様子を見る期間を長くしていましたが、今では他の歯に亀裂がある事を疑うようになりました。

それが隣の歯であったり、上下反対の歯であったり。
考えてみれば力がかかるのは隣であったり噛み合う歯であることは当然なので、亀裂歯症候群の歯が1本とは限らないんですよね。
その歯も仮歯にすると不快症状はピッタリとなくなります。

以前このようなクラックに対する歯の治療について三橋純先生に何気なく話したところ、三橋先生も同じことをしていると聞いて、やっぱり顕微鏡治療をきちんとしていると行き着くところは同じなんだな〜と思った事を思い出しました。

近くの歯医者で原因がわからずいたずらにしみ止めの薬をつけている人がいましたらこのブログを参考にしてください。
不必要な抜髄(神経を取ってしまう)の前に気づいてください。

拡大をすることの大切さ、手探り治療ではなくミラーテクニックができる顕微鏡歯科治療の有効性をもっと多くの人に知ってもらいたい。

亀裂歯症候群には適切な診断と適合の良いクラウンが必要です。
それにはミラーテクニックを主体とした顕微鏡歯科治療が非常に有効です。

右下の一番奥の第二大臼歯です。
光を透かす透照診によって遠心部にクラックが認められます。
修復物(インレー)が脱離して来院されました。
健康な歯をなるべく削らないことは確かに大事なことだが、それで歯を失う危険性が高くなっては元も子もない。
遠心の歯肉からの萌出量が少ないため(臨床的歯冠長)歯冠長延長術も行った。
治療費は合計約30万円。

左下の6(第一大臼歯)でインレーを除去すると象牙質にクラックを認めた。
この患者さんはこの歯を仮歯にした途端症状がかなり消失した。
しかし若干痛いような時があるとのこと。
上顎の左側6を診査すると同様にインレーを装着しており、辺縁隆線にクラックを認めた。
この歯を仮歯にした途端全ての症状は消失した。
不具合を起こしている亀裂歯症候群の歯は1本とは限らない。
治療費は2本で合計約50万円。

右上6の近心にう蝕があり治療をすると象牙質にクラックを認めたため、装着してあったインレーを除去すると近遠心的に歯の中央部まで象牙質クラックを認めた。
特に亀裂歯症候群様の症状はなかったがクラウンを装着した。
治療費は合計約25万円。

大事なエナメル質と引き換えに治療をするため、クラウンの適合精度は高いものでなければいけない。
それにはミラーテクニックを主体とした顕微鏡歯科治療が最適である。


自分が行ったクラウンの適合精度がどの程度なのか知りたくなるのは精度を追求する者としてはごく自然なことです。

2018年に電子顕微鏡2級技師の資格を取得して自分のクラウンの適合を電子顕微鏡で調べました。

春の日本顕微鏡歯科学会の大会長賞記念講演ではこの辺も少しお話ししようと考えています。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔