どんな治療をしても治せない歯の傷病の一つに完全歯根破折があります。
抜歯をしない限り骨が失われます。
自覚症状は関係なく、病態は経時的に悪化します。

ボンドで割れた歯根を接着させる方法もあるのかもしれませんが、もし私の歯だったらという基準で考えると抜歯をお勧めしています。

抜歯後の治療法ですが、これも自分のことだったらという基準で患者さんに説明するとしたら第一選択はインプラントになります。

なぜか?

他の歯を治療に巻き込まない現在では唯一の(移植もありますが難易度↑)方法で、歯と同程度の咬合力の負担能力があるからです。

ブリッジ、部分義歯は他の歯を治療に巻き込んでしまい咬合力の負担能力も天然歯ほどなく、その埋め合わせは他の歯への負担になります。

歯科治療は後戻りができない治療が多いのでここは良く考えて治療法決めてもらっています。

今回は抜歯後インプラント治療を行う場合のお話です。

インプラントは歯と同様に骨に支えられているので天然歯と同程度の咬合支持力がありますが、抜歯をしてそのまま自然治癒を待つと骨は水平的に50%以上、垂直的に20%程度の骨吸収が起こります。
骨の上にある歯肉、軟組織量も減ります。

インプラントを考えた抜歯の場合どれだけ骨量と歯肉の量を減らさないのかが大変重要になってきます。

インプラントを長持ちさせるポイントとして頬側の骨量と歯肉の厚み、埋入位置、埋入深度が挙げられます。

このような原則を守ると長期的に安定した予後が期待できます。

すでに歯を失ってしまった部位にもインプラントを植立することは可能ですが骨量や歯肉が足りない場合、一般的には侵襲の大きい治療になる場合があります。

ある患者さんはインプラント治療した後痛みと腫れに随分と苦しめられたためもう二度とインプラントをしたくありませんと言っていました。
私が見てもインプラント治療がお上手な先生だなあと思っていても、患者さんに二度と受けたくないと思われてしまうと成功してるんだか失敗してるんだかわからなくなります。

なるべく患者さんが苦しまないようなインプラント治療をしたいと考え、これから抜歯をする場合なるべく骨量と歯肉を減らさない治療をしています。
この治療は自由診療になります。
治療費は約6〜15万円です。

細菌にさらされた歯の周囲の骨は吸収され、慢性炎症により軟組織が充満しています。
骨再生というと語弊がありますのでインプラント治療に適した骨様の組織にするにはできるだけこの軟組織を除去する必要があります。

私はこの場面でも顕微鏡はたいへん有用だと思っています。

軟組織除去法は手用器具、回転切削器具、レーザーなどで除去します。
抜歯をする時間より軟組織除去に費やす時間の方が圧倒的に長いです。

私が高校生だった35年ほど前、歯科治療に対して無知だった私は父親の勧めで近くの歯科医院で神経をとる根の治療を受けました。
それから10年もしないうちに激しい痛みに襲われ、歯科医師になっていた私はこの歯の状況を理解していました。
ファイル(器具)の破折片が留置されており骨の破壊が進み化膿していることを。
当然その当時の歯医者からファイルの破折のことは聞いていませんでした。
怒りも憤りも私にはありませんでした。この業界の保険治療の限界というか欺瞞を理解していたから。

破折ファイルが原因で化膿しているわけではなく根管治療がうまくいっていないのですが、特に奥歯の根管治療は難しい治療の一つです。

それから現在に至るまで二人の先生にお願いしてこの歯の治療をしましたが、ここのところ具合が悪く先日ついに抜歯をして決着をつけました。

本当に最初の1回目の治療が大事なんだと身を以て体験しました。

抜歯した歯は左下6で中間欠損です。
もちろんブリッジではなくインプラントにするために、上述した治療を行いました。
治療名はリッジプリザベーションといいます。

このブログを書いているのは術後2日です。
無痛か、と聞かれれば無痛とは言わないけれどたまにズンとする感じ。
見た目の腫れはないが感覚的に腫れている感じ。
軽く口を濯げばなんとなく色がつく感じ。
今まで私が治療した患者さんがおっしゃった通りの術後の状態です。

治療していただいた歯科医師は私が一番信頼している顕微鏡歯科医です。
やはり見ながら治療ができる歯科医師にお任せすると安心感があります。

本当に声を大にして皆さんに伝えたいのは、最初の治療が肝心です。
その時しっかりした治療をしておけば後々大変な目にあうことは少ないでしょう。

私が考える良い歯科医師とは、費用がかかったとしても将来的なことを考えてきちんとした治療を法を提案してくれる先生だと思いますし、不都合な真実も正直に伝えるべきだと思います。

安いことこそが良心的な歯医者だとは、残念ながら私はそう思いません。

おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔