痛みもなにも無い歯のクラウンがある日突然脱離。
おまけに根管内に破折したファイルが留置されています。
私達にはいくつかの治療法の引き出しがあります。
患者さんは費用対効果、将来的に起こりうるトラブルなどを考慮して歯を残す治療を選択しました。
今回は破折ファイル除去にスポットを当てて紹介します。

患者さんは50代男性で、私が以前勤めていた歯科医院からのお付き合いです。

全体的に銀歯や虫歯の治療がされている歯が多く、来院の傾向として数年に1度、何かが取れたとか痛んだということでお見えになります。
その数年に一度の歯の不具合の状態が、毎回かなり深刻な状態なのです。
以前もそうでしたし、今回の症例もそうですし、つい最近完了した歯もそうでした。

深刻な状態でも、治療後はなんにもなかったように噛めるので、ついつい定期検診は見送られてしまうのでしょうね。

患歯は左下の一番奥の歯。

ほっぺた側の歯は虫歯が歯肉の下まで進んでいます。

この後、歯を残すにしても、歯肉の上に健康な歯が2mmくらいあったほうが長持ちするのですが、現在はマイナス2mmくらい。

さらに根管内には4.5mmほどの破折したファイルがそのままになっています。

いくつかの治療法と治療費を提示して、各治療法の予測される経過についてご説明しました。

患者さんが選択したのは歯を残す治療法です。

根管治療、歯冠長延長術、クラウン装着で治療費は約40万円です。

レントゲン写真では根尖病変はないようにも見えますが、歯冠側からの細菌の漏洩が長期間に渡っていたので、できれば破折ファイルも除去して根管治療をしたいところです。

現代の歯科治療には顕微鏡という武器と、それに適した道具も揃っているので、大抵の破折ファイルは歯に負担をかけない範囲で除去することが可能になりました。

汚染されているガッタパーチャを除去します。

イスマスやフィン(要は隙間のこと)などに入り込んでいるガッタパーチャも可能な限り取り除きます。

ガッタパーチャを除去するとファイルの頭が見えてきました。

ファイルが折れるのは、歯根の湾曲部です。

ファイル破折の頻度は約4%くらいといわれています。
歯根の湾曲部に無理な力でファイル操作した場合も破折しますし、そうでない場合も破折します。
新品のファイルを使用したとしてもファイルは破折する可能性があります。

破折しないように十分な注意は必要ですが、0にはできない偶発症のようなものです。

もし破折したファイルがあった場合、除去すべきかそのままにしておくかはケース・バイ・ケースです。

根管治療の目的は、根管内の感染物質の除去です。

破折したファイルが感染源でなければ必ず取らなくてはいけないものではありません。
ただその見極めの具体的な方法はありません。 経過を見るくらいでしょうか。

ファイルを除去するためには、きちんとした形成が大切です。

なるべく歯に負担がかからないように、最小限の切削量で完了させたいところです。

形成が進むと、根管壁に食い込んでいたファイルが緩みダンスをしているように揺れ始めます。

簡単なケースだと根管内にEDTAを満たして超音波をかければ、破折ファイルは根管口外に飛び出してきますし、場合によってはなにも入れなくても飛び出してくることもあります。

除去したファイルはレントゲン写真の術前の予想通り4.4mmくらいの長さでした。

レントゲン写真でも破折ファイル除去の確認をします。

根管内の異物を綺麗に取り除き通法の顕微鏡下の根管治療を行いました。

その後歯冠長延長術を行い、歯肉の上に健康な歯がくるように外科的な処置をしましたが、この歯には複数の歯根があるので、根の股があります。
その股を外界に曝したくないので、そのへんのさじ加減が難しいところです。

現在はクラウンを装着して2年ほど経過しました。

まだ2年しか経っていませんが、あんなに深刻な深い虫歯でも今のところトラブルはなく順調に経過しています。

せめてメインテナンスに来てもらいたいのですが、お仕事が忙しく遠方からお見えになるのでなかなか難しいようです。

具合の悪い歯をピックアップして治療の必要性もお伝えはしているのですが、取れたり痛んだりしたり、そのようなことをきっかけにして治療がはじまります。

何年も前からわかっているのなら、もう少し早く始められればなあ、とは思いますが、それぞれの事情があるのでしょう。

歯だけについて考えれば、今回のように虫歯が進みすぎた歯でも、やり方によっては再び噛めるようにはなることがあります。
でも、また今までと同じようなお手入れをしているようでは、いつまた不具合がでるかわかりません。

なによりも重症になってから治療するのではなく、軽症のうちにきちんとしておきたいものですね。
その方が経過に不安が少なくなります。

今回は破折ファイルの除去に注目してみました。

最近、破折ファイルに関連して、ちょっと色々あって考えていたら、今までに除去したファイルの中で印象に残ったものを紹介したいな、と思いました。

破折ファイル3部作。

今回のように他の先生が破折したファイルを取ることが多いのですが、自分も折ることがあります。

次回は自分が破折させてしまったファイルを取る症例を紹介しますね!

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔