2022
10/03
少しづつ着実に
- 2022.10.03
- ブログ歯記
- MTAセメント・ 覆髄・ 顕微鏡歯科治療(マイクロスコープ)・ 顕微鏡精密クラウン
今回の患者さんは約10年前から治療にいらしています。
下の前歯以外ほとんどの歯がすでに治療済みで問題が山積していました。
今までと同じ保険治療をしていても結局また同じようになってしまい、繰り返しの治療をする事で歯を失ってしまうのではないか、という事で遠方から通院し続けております。
顕微鏡歯科治療を希望しての来院でしたが、多数歯に及ぶため費用が高額になってしまいます。
そこで年に1〜2本づつ治療していくことを患者さんと相談して決めました。
まだ全ての治療は終わっていませんが、やはりきちんとした治療をした歯は安定しています。
機会があるごとに全体のチェックをしていますがこのような治療方針も悪くはないと感じています。
長い道のりも一歩から始まるので、先を急いで安易な治療をする事は得策ではないと確信しています。
歯科治療は不可逆的なのですから。
初診時から修復物の下に不具合がある歯の治療をようやく行える順番がきました。
このような修復物は毎日目にするものですが、長い間臨床をしていると本当にこの治療は歯の治療なのか、と疑問を持ってしまいます。
この修復物はインレーというもので、顕微鏡歯科治療では私自身はもう10年近く行っていません。
誤解しないでもらいたいのは原理原則に則ったインレー修復を行って良好な経過をたどっている歯も多数あるのも知っているし、その技術を持っている歯科医師がいる事ももちろん知っています。
ただ、自分の知識と技術の範囲において第一選択に上がってこないという事です。
問題なのは保険治療という名の下に全く情報ももらえずに否応無く簡便なインレー修復をされてしまう現状に疑問を持っているという事です。(だからって保険の簡便なレジンが良い治療だとは微塵も思っていません。むしろよくわからない医療ジャーナリストが正確ではない情報を発信するので困惑するくらい)
現実的には歯の価値観は人それぞれで、総じて日本人は歯に対しての価値観は低いものだと感じています。
この患者さんにはこのインレー修復をする前にきちんとした情報はお伝えすることは必要だったのではないかな?
それとも不具合に直面したから今までの治療に疑問を持ったのであって、その当時説明しても受け入れてくれなかったのかな?
私は歯科治療の第一選択は顕微鏡治療だと考えているのでどんな患者さんにも情報の不公平はあってはならないと思いなるべく客観的になるよう心掛けて説明をしています。
患者さんによってはウザイと思う人も多いと思いますが、おもて歯科医院はそういう歯科医院です。
いずれにしても今顕微鏡歯科治療が必要なんだという患者さんに対して精一杯のことをする事が私の役目だと思っています。
修復物を除去して窩洞内を綺麗にしながらレントゲン上で確認している虫歯であろう場所まで切削を進めます。
目的の場所はやはり虫歯でした。
位置関係と虫歯の深さから露髄(神経が露出すること)が予想されるため、なるべく外側の虫歯から除去してなるべく神経を細菌に暴露させないように切削しました。
最後の一削りで露髄しました。
非常に小さな露髄であることと、事前の自覚症状やテストで壊死はしていないであろうと判断したため、MTAセメントで覆髄しました。
MTAセメントは生体親和性に優れた材料で現代の歯科治療になくてはならないものになっています。
現在では様々なセメントが販売されハンドリングも向上し応用範囲も広がっているので期待が持てます。
その後は築造を行いクラウンの形成へと進みます。
クラウンの形成も顕微鏡下でのミラーテクニックで行います。
患者さんは大きく開口できないのですがそんな時もミラーテクニックは有効だと感じています。
私は拡大下で見ながら行う治療にエビデンスなど語る必要がなく、こんなこと自明の理で当たり前の事だと考えています。
盲目的、あるいは拡大下での盲目的治療で平気だと考えるその思考が私には理解できません。
私自身が顕微鏡下でのミラーテクニックで歯科治療をする前は盲目的歯科治療になんら疑問を感じていなかったのでよく理解できます。
概形成をして仮歯を作製し歯肉やかみ合わせなどの調和を確認します。
脱離する修復物は良い修復物ではないので仮歯でも安定しているかは大事なポイントです。
仕上げの形成で辺縁部分を整えます。
クラウンの形成ではテーパーとフィニッシュライン、必要十分な切削に気を使っています。
最終形成を終了したら型採りをします。
模型上でのクラウンの適合を確認。
口腔内での適合も模型上と同じ適合状態でした。
長期間に渡って順番待ちをするのですから虫歯が進んでしまわないか心配もあったでしょう。
患者さんは保険の治療をしても良い結果が得られにくいことを経験して知っているのでこの方針を選択しました。
露髄は長期間の待機が原因なのかはわかりません。
でも私はこのやり方がこの患者さんにとっては正解のやり方なのだと思っています。
今回の治療費
覆髄 約6万円
ジルコニアクラウン 約20万円
治療回数 6回
おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔