歯を治してもらいに行ったのに壊れてしまう(パーフォレーション)

歯科医院というのは、患者さんの主訴(お困りの事)を治す事を生業(なりわい)としています。

もちろん、治療内容自体は患者さんお一人おひとりによって異なりますが、最終的には主訴を取り除き、患者さんのお悩みを解決することを目的とすることは、どこの歯科医院であっても同じです。

しかし、どんなに歯科医が真摯に治療に取り組んでいても、まれに、治すのではなく歯が壊れてしまう事が起こります。その一つに『パーフォレーション』というものがあります。

パーフォレーションとは医原性の穿孔のことで、わかりやすく言うと“間違って穴を開けてしまう”ことです。パーフォレーションが起こってしまうと、根管の壁に穴があいてしまい骨の方まで貫通してしまいます。よく、根管治療(歯の根っこの治療)時におこります。

これが起こると、顎の骨への細菌感染が起こってしまい症状が重症化する可能性が高くなります。 そのため、MTAセメントを用いたパーフォレーションリペア(穿孔部の修復)を行い、パーフォレーションが起こった部分を修復することが必要になります。パーフォレーションリペアを行うことで、歯が残せる可能性がでてきますので、患者さんにとってはメリットの高い治療法になります。

この説明だけ聞くと、患者さんは驚いてしまうかもしれません。

それは当然のことです。治療しに行って穴があいてしまうのですから….しかしながら、狭く、暗いお口の環境下で治療を行う歯科治療においては、パーフォレーションは珍しい事ではありません。そして、パーフォレーションリペアが重要であることは言うまでもありません。

それでは、本記事では当院にて、歯科用顕微鏡を用いてパーフォレーションリペアを行った患者さんの治療について以下にご説明していきたいと思いますので、ぜひご参考ください。

パーフォレーション疑いの40代の患者さんのケース

こちらの患者さんは40代の男性の方です。
下記が、こちらの患者さんのレントゲン写真ですが、歯周検査の結果とレントゲン画像を確認した結果、右下6番目の歯にパーフォレーションがあることが強く疑われました。

レントゲン写真

患者さんのご希望もあり、歯科用顕微鏡下にて治療を開始することとなり、ラバーダム防湿を行い、早速治療を開始いたしました。根管近くを治療しますので、治療中の細菌の混入は可能な限り避ける必要があります。そういう意味でも、このようなケースの場合はラバーダム防湿が必須となります。

こちらが歯科用顕微鏡下で拡大して見た患部の状態です。蓋がかぶさっていますので、この蓋を取って、体内へと通じる道を露出させていきます。

ラバーダム防湿

下記の写真は蓋の除去の途中ですが、汚染された髄腔が見えている状態がみてとれます。よく見ると、柔らかいデブリ(ゴミ)が多量に溜まっていることがわかります。

歯髄

デブリを取りながら、さらに根管を見ていくと、やはりパーフォレーションが起きている事が歯科用顕微鏡下で確認できました。これがパーフォレーションです。残念ながら、髄床底に穴が開いてしまった状態になっていました。

パーフォレーション

パーフォレーション

過去にパーフォレーションを起こしてしまった苦い経験

ここからは、少し、私の歯科医師としての過去の経験談を交えてパーフォレーションについて書いていきたいと思います。

実際、歯科医師として日々多くの患者さんの治療にあたっていれば、根管治療(歯の根っこの治療)時に、ファイルの破折(※1)やパーフォレーションなどを起こしてしまった経験は少なからずあると思います。

そのたびごとに、歯科医師は落ち込んだり、患者さんに申し訳ないと思ったり、どこか言い訳を考えてみたりと胸を痛めたりしています。このような苦い経験をしている歯科医師はとても多いことでしょう。

当然ながら、私にも、このような経験がありました。

私が新人の歯科医師時代に、アルバイト先でパーフォレーション起こした経験があります。その時、当時の勤務先の院長先生に、『虫歯が深く進行していたので、虫歯をとったら穴が開きましたと患者さんに説明しなさい』と言われました。私は、当時も一生懸命、真摯に治療に向き合っていました。しかしながら、肉眼での治療だったため、手探りの治療となり、見当違いで穴を開けてしまったのです。

また、パーフォレーションのみならず、根管治療(歯の根っこの治療)時のファイルの破折も起こしたこともあります。

でも「見えない」からどうにもなりませんでした。
今では、歯科用顕微鏡を用いて、肉眼の数十倍に患部を拡大して治療をしているため、このような事はなくなりました。

このように、歯科用顕微鏡を用いず(肉眼で)治療していた頃の、反省や教訓や後悔などがあったことで、今の顕微鏡歯科治療にたどり着いたとも言えます。今では、歯科用顕微鏡の恩恵をうけながら、このようなパーフォレーションが起きている患者さんの治療にあたっている訳ですから、この道を選んで良かったなと、つくづく思います。

※1:ファイル破折
根管治療(歯の根っこの治療)時に、根管の中を掃除するドリルのようなものをリーマー、ファイルと言います。これらが根管治療時に折れてしまい根管内に取り残されることをファイル破折と言います。

パーフォレーションの治療

それでは、治療の解説に戻りたいと思います。
根管が見えてきた所で、髄腔内を綺麗にして、より中の様子がわかるようにしました。良く見えるようになったら、根管口は4つあってパーフォレーションは近心頬側にあるのがわかりました。ちょうど器具で触れているところが近心頬側根の根管口なので、もしかしたら根管口をドリルで削りながら探しているうちにパーフォレーションを起こしたのではないかと思われます。

根管

根管

この後で、齲蝕検知液を使って感染している歯質を染め出し、できるだけ汚れているものは除去します。染め出し液を塗ったあとで水を洗い流すと、虫歯になっている所は染め出し液が残りますので、確実に虫歯になっている部分を取り除くことが可能になるのです。


染め出し

これは、“たられば”の話になりますが、最初の治療時に、歯科用顕微鏡を用いて治療を行っていれば、確実に根管が見えるため、パーフォレーションを起こす確率も低かったかもしれません。しかし、こんな“たられば”を言っても仕方ありません。せめて、起きてしまったパーフォレーションをリペアする時に、歯科用顕微鏡を用いた治療が、患者さんのお役に立てれば良いと考え、日々、顕微鏡歯科治療に向き合っている所です。

次に、この患歯のパーフォレーションはポケットと交通しているので周囲の汚染物をよく取り除く必要があります。いわゆるendo-perio 歯周歯内病変なので外部からの漏洩があります。このようなケースでは、一般的に予後はあまり良くないと言われています。これらについては、患者さんには十分説明をした上で治療を進めることといたしました。

下記の写真は次亜塩素酸ナトリウムを使って感染物質や軟組織を融解している所です。次亜塩素酸ナトリウムに超音波を併用すると活性化され洗浄効果が向上します。

軟組織を融解

この後、超音波を使ってパーフォレーション周囲をさらに機械的に清掃し綺麗にします。パーフォレーション部は、この後に封鎖をする予定ですが、感染物質を残したままだと予後がうまくいかないので可及的に綺麗にします。4つの根管の清掃も必要になるので、各根管口をきちんと明示する必要があります。髄腔内はかなり漏洩していたので、残存するガッタパーチャは可及的に除去しました。

ガッタパーチャの除去

自由診療におけるパーフォレーションの封鎖

この後でわかった事ですが、近心根にはイスマスがあり根管充填剤が入り込んでいました。
このイスマスもただ根管充填剤が入り込んでいるだけなので、感染物質が溜まっていると考えた方が良さそうです。ゆえに、パーフォレーションを塞ぐ前に可及的に感染物質を取り除きたいので、粘膜に接する裏側にも器具を入れて機械的な清掃をしました。

清掃

ここで、パーフォレーションの封鎖について説明してきたいと思います。

例えば、保険治療で封鎖に使う材料は、概ねレジン系の材料が使われます、しかしレジン系の材料は、固まる時に水分があると接着不良をおこし封鎖が不完全になってしまうことがあります。どうしてもお口の中には大量の水分があるので、ここが難しいところでもあるのです。

一方、自由診療時に封鎖につかわれるのがMTAセメントです。
MTAセメントは水分がある環境でも、きちんと硬化してくれ、さらに少し膨張してくれるので封鎖性がとても良いのです。ぴったり封鎖してくれるという事です。ぴったり封鎖してくれると、それだけ隙間からバイ菌が入るリスクが低くなります。ここでは、ぴったり封鎖する材料を使うのが適切です。

しかし、MTAセメントは1グラム一万数千円しますので、どうしても治療費に反映されてしまいます。治療効果を高めるための選択なので、このあたりは患者さんにご理解いただきたい所でもあります。しかし、材料うんぬんの前に、汚れた環境で何を使っても全く意味がありませんので、とにかくこの段階では、徹底的に綺麗にしていきます。

根管治療

その後、遠心根も根管治療をしました。根管充填前に薬液で十分に洗浄します。(目安は20分間)

充填前の洗浄

下記の写真がパーフォレーション部分にMTAセメントで封鎖する直前の様子です。だいぶ周囲が明るくなり綺麗になっているように見えるのがわかるのでしょうか。軟組織もだいぶ落ち着いて出血もコントロールできています。

封鎖する直前

実は、パーフォレーション部にMTAセメントを盛る際は、厚めに盛ることが良いとされています。近・遠心根にも同様にMTAセメントで根管充填します。

MTAセメント充填

下記のレントゲン写真は根管充填直後の写真です。

充填後

(パーフォレーション治療)患者さんの1年後

ここまで、私なりに全力で治療にあたりましたが、今回のケースはどうしてもポケットと交通しているので予後に不安が残ります。ポケットと交通していると細菌がポケットから再度、パーフォレーション部に侵攻してしまうからです。

頬側の分岐部がかろうじて歯肉に隠されている状態なので、患者さんには定期検診で来院する度に、この歯に関する知識を持ってもらうようにし、プラークコントロールをしっかりするように、何度もご説明させていただきました。

こちらが術後1年後のレントゲン写真です。

レントゲン写真

術後1年が経過しましたが、患者さんの自覚症状はありません。レントゲン写真で確認すると、状況の悪化は見られていませんので、ここからが勝負となります。

ここからは、患者さんが日々のブラッシングをしっかり取り組めるよう、モチベーションを維持させられるように、我々がアプローチしていく事が大切になります。

正直、パーフォレーションを起こす前にお声掛けいただきたいというのが本音ではありますが、どんな状況下であっても、顕微鏡歯科治療の力が発揮できることに喜びを感じています。

多くの患者さんから、「この歯は顕微鏡治療するほどでもないですか?」と質問されますが、実際には、どんな歯でも歯科用顕微鏡を用いた顕微鏡歯科治療をお勧めします。これは断言できます。

軽度な虫歯であればあるほど、最初にきちんとした治療を施すことで、虫歯の悪化を食い止めることが出来るからです。これはとても大事なことです。多くの患者さんはその治療ができてなかったから、今苦しんでいるのです。

以上のことから、我々のように顕微鏡歯科治療を行っている歯科医が良質な情報発信をしていく必要があると考え、日々の治療に向き合っています。

治療費,治療期間,主な副作用

費用:根管治療+パーフォレーションリペア 約200,000円
治療期間:3回受診
主な副作用:成功率は100%ではない

執筆者情報

おもて歯科医院 表 茂稔

表 茂稔歯学博士/日本顕微鏡歯科学会認定指導医/顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔

〒279-0043 千葉県浦安市富士見1-11-29
TEL:047-354-8777

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