親知らずを抜くのって不安ですよね

10代後半〜20代前半に生えてくる親知らず(おやしらず)。

親の手を離れた子供が大人になり始める頃に生える歯なので、『親に知られることなく生えてくる歯』ということで『親知らず(おやしらず)』と言われるようになったと言われています。

今では、親知らず(おやしらず)という言葉が有名ですが、正式な名称は第三大臼歯で、別名、智歯(ちし)とも呼ばれています。また、親知らず(おやしらず)が生えてくる場所は、前歯(中切歯)から数えて8番目の最も奥になります。

親知らず

前歯から数えて8番目

一般的に親知らず(おやしらず)は、上顎下顎の左右で、それぞれ1本ずつ生え、合計4本あるのですが、もともと親知らずの無い人や、必ずしも4本が揃っていない人など、人によって様々です。

そんな中問題になるのが、顎の大きさの関係から親知らず(おやしらず)が生えてくる場所が無かったり、正常に生えずに埋まった状態で生えてしまったり、傾いて生えてしまう状態です。部分的に歯肉に被ったままになっている状態などは、歯の清潔を保ちにくくなり、歯肉の炎症を起こしやすい状態(智歯周囲炎)になります。10代後半〜20代前半に親知らず(おやしらず)トラブルで問題になるのが、この炎症かと思います。炎症がひどくなると、顔が腫れたり、口が開きにくくなったりしますので根本解決が必要になります。

こんな親知らず(おやしらず)ですが、よく下記のようなお声をいただくことが多くあります。

●親知らずを抜いた後はすごく腫れる。

●親知らずを抜いた後は何週間も痛む。
●親知らずを抜いたら会社を休まなければならない。

などなど….


これまで、親知らず(おやしらず)を抜いた人の体験談を聞くと、思わず怖くなってしまいますよね!しかし、そんな漠然とした不安や恐怖を、少しでも軽くできるように、顕微鏡歯科治療の観点から親知らず(おやしらず)の抜歯について解説していきたいと思います。実際に、当院にて治療した患者さんのケースでご紹介いたします。皆様の不安軽減の一助になれるといいのですが。ぜひ、お読みください。

歯科用顕微鏡を使って親知らずを抜く

こちらのレントゲン写真の患者さんは20代の女性の方でした。歯のレントゲンを見てお分かりかと思いますが、左下奥に親知らず(おやしらず)が横になった状態で埋まっています。

レントゲン写真

歯のレントゲン写真を良くみると分かるのですが、親知らず(おやしらず)と隣の歯の間には隙間が空いています。この隙間がくせもので、ここが歯磨きなどが上手く行われずに、清潔を保ちにくい場所となってしまうと不潔域になってしまいます。

もちろん、最初のうちは炎症も起こらず、あまり問題にはなりません。しかし、時間の経過と共に不潔域からバイ菌が入り込み炎症が発生してしまいうことがあります。

人間は年を重ねるごとに免疫力や抵抗力が弱くなっていきます。そのため、親知らず(おやしらず)がいつ痛み出すのか予測はできません。つまり、親知らず(おやしらず)が隣接している隣の歯に、いつ虫歯ができてしまうのか予測はできないということです。

こちらの患者さんには、このようなリスクを低減するためにも、年齢の若いうちに(症状がないうちに)親知らず(おやしらず)を抜いておきましょう、と患者さんにお勧めいたしました。特に、高齢になってからの親知らず(おやしらず)の抜歯は辛いものなるからです。これらのリスクをご説明したことで、こちらの患者さんは親知らず(おやしらず)の抜歯を決めました。

親知らず(おやしらず)をCTで精査

早速、安全に親知らず(おやしらず)を抜歯するために、歯科用のCTスキャン撮影を行い、詳しく精査することにいたしました。

こちらがCTスキャンの画像です。CT画像で確認すると、歯根が曲がっている様子がよくわかりました。そのうちの一本は鉤状になっています。

CT写真

このような状態ですと、細い根(歯根)の先端は折れやすいという問題があります。非常にデリケートな処置が必要になってくるのです。しかし、万が一、治療時に歯根が折れたとしても、感染しているわけではないのでそのまま残すという選択肢もあります。なぜなら、この場所は下歯槽神経も近接しているので無理に攻めてしまうと麻痺が出てしまうかもしれないからです。

これらのリスクや治療方法を患者さんに説明し、抜歯の日を迎えることになりました。

歯科用顕微鏡下での抜歯:切開

抜歯の日。
まずは最初に十分に麻酔をかけた後に、念入りに患部の清掃を行いました。

歯の清掃の様子

特に、最も奥に生えている親知らず(おやしらず)周辺は、歯磨きなどによるお手入れがしにくいところなので多量に歯垢が付着していることがあります。歯垢というものは細菌そのものですので、抜歯のような外科的な治療をするときは可能な限り細菌数を減らし感染リスクを低くした状態で行うことが大切です。

麻酔が効いたら、まずは切開を行います。
切開は最小限に留めます。歯科用顕微鏡で拡大しながら切開しますので、これが可能です。

切開の様子

通常、親知らず(おやしらず)の抜歯時の切開は、縦切開を入れることと言われていますが、これは術野を見やすくするためのみに入れる切開と私は認識しているので私は行いません。なぜなら、歯科用顕微鏡で拡大して切開しますので、これ以上術野を見やすくさせる必要がないからです。「見える」親知らず(おやしらず)の抜歯をするのであれば、縦切開はほぼ必要ないと考えています。これが術後の痛みや腫れの度合いを左右すると考えています。

歯科用顕微鏡下での抜歯:分割

切開により親知らず(おやしらず)が見える様になったら、次は歯冠と歯根に分割します。分割する場所は下記のイラストの位置になります。

歯根の分割

歯根の分割の様子

歯科用顕微鏡を使わずに、この分割作業を行う場合は、普通は基本手探りで行います。私達のような顕微鏡歯科治療を専門に行う歯科医にとっては、もう手探りでの手術には戻れないです。それほど、歯科用顕微鏡を用いての抜歯はメリットが高いと考えています。

実は、この患者さんのケースは下顎管とある一定の距離がありましたので、比較的難しい分割ではありませんでした。しかし、もっと近接したシビアな場面では、やはり歯科用顕微鏡を使って、術野が大きく見えている方が安全性は格段に高くなります。

また、舌側も皮質骨が薄い場合はとても神経を使うところですが、歯科用顕微鏡で「見ながら」分割ができればその心配はかなり軽減できます。

とくに、私は骨をあまり削りたくないので歯を細かく分割しました。

なぜなら、抜いてしまう歯をいくら細かく削っても、術後の腫れには大きく影響しないからです。むしろ、顎の骨を削ると痛みや腫れが出る可能性は高いでしょう。そういう意味から抜く歯を細かく分割して治療を進めます。

しかも、歯科用顕微鏡で拡大して「見ながら」分割できるので、隣の歯を間違って削る心配もありません。とても安全に進めることができました。

分割の様子

歯科用顕微鏡下での抜歯:歯を取り出す

とにかく歯を細かく分割し、あまり穴を広げずに歯冠を取り出しました。そして、歯冠を取り出した後は歯根を取り出します。実際に歯根を見てみたところ、CT画像の通り遠心根は随分曲がっていました。

案の定、残った近心根は予想通り先端が折れてしまいましたが、歯科用顕微鏡で拡大してあるため、よく見えるので取り除くことにトライができます。無理に押し込んでしまうと下歯槽神経に影響が出る恐れがありますが、ピンポイントで処置ができます。


歯を取り出した様子

ちょっとわかりにくいのですが、CT画像通り鉤状になっていることがわかります。曲がって生えていた親知らず(おやしらず)をとり除くことができましたので、最後に縫合をして終了となりました。

縫合の様子

抜歯後は痛みと腫れがほとんど無かった

親知らず(おやしらず)の抜歯後、一週間たった頃に患者さんに受診していただきました。
患者さんに抜歯後の状況をお伺いしたところ、抜歯後の痛みと腫れはほぼなかったとの事でした。これがとても嬉しいことです。

本ブログ記事の冒頭に、『親知らず(おやしらず)を抜くとすごく腫れる、何週間も痛む、会社を休まなければならない』、などなど、様々な不安を患者さんから伺うことがあると書きました。こちらの患者さんのように、抜歯後の痛みや腫れが少ないことはもちろんのこと、抜歯後は日常生活に支障がなかったというお声をいただくのが、最も歯科医冥利に尽きることです。

これこそが、歯科用顕微鏡を使って抜歯した効果の表れだと考えています。
こちらの患者さんは、抜歯後の傷口も順調であることを確認して洗浄してから抜糸しました。

ここからは余談ですが、私は、抜歯後の消毒はしません。なぜなら、消毒は傷を治そうとする身体の治癒力を邪魔してしまうからです。健康な人には、特に消毒は必要ないものと考えているので、生理食塩水で洗浄する程度で終了し、あとは患者さんの自分の修復力に委ねます。

何かと不安や恐怖を感じる親知らず(おやしらず)の抜歯ではありますが、歯科用顕微鏡を用いることで、こちらの患者さんのように術後の症状が軽くて済む方法もありますので、ぜひ当院にお気軽にご相談ください。

治療費,治療期間,主な副作用

費用:抜歯難易度により、55,000円~165,000円(税込)
治療期間:抜歯1日、抜糸1日
主な副作用:一過性の麻痺など

執筆者情報

おもて歯科医院 表 茂稔

表 茂稔歯学博士/日本顕微鏡歯科学会認定指導医/顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔

〒279-0043 千葉県浦安市富士見1-11-29
TEL:047-354-8777

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