上辺だけの情報、本質的なことに触れていない最先端マイクロスコープアピールなど便利に使っているネット情報は玉石混淆。
そんな多くの情報から本質を見分けるのはあなた自身なのです。

大学教育では本当の意味での見える歯科治療は教えていません。
正確に言うと教えられる教員がいません。
なぜなら彼らも大学教育をうけてきたからです。

どういうことなのか。

顕微鏡(実体顕微鏡、マイクロスコープ)は小さなものを拡大する道具です。

歯科治療で一番問題なのは死角です。

口をあけて正面からのみにしか口腔内を見ることができないため、必ず死角ができます。

私が歯科医師1年目に指導医から死角部分の治療法は「心の目で見ろ」でした。
大学病院の話です。

教育とは恐ろしいものです。
その当時の私は微塵の疑いもなく納得していました。

その洗脳に解き放たれた今の私は、死角を見えないまま治療している顕微鏡歯科治療の蔓延に暗澹たる気持ちでいっぱいです。

ほとんどの歯科医師、歯科衛生士が「顕微鏡は見えるから素晴らしい!」と口を揃えて言っているにもかかわらずです。

顕微鏡歯科治療の情報において純真無垢な患者さんに、死角で見えない部分を顕微鏡で手探り治療をしてるいるにもかかわらず情報発信だけは上手い歯医者、これから顕微鏡歯科治療を始めようとする歯科医師、歯科衛生士に今までの歯科治療をしているスタイルで、患者と自分の目との間に顕微鏡をもってくればいいだけの簡単なこと、と間違った情報を流して手探り治療を増長させる歯医者。

歯科医療も経済活動のひとつなのでこれはこれで良いとは理解しています。

ただ、日本顕微鏡歯科学会においてはこれだけははっきりさせておきたいと考えています。
顕微鏡歯科治療の本質は直視直達治療だと。

直視直達治療とはどのようなことなのか。

それは治療部位と治療器具が接しているその部分を見ながら器具操作することです。

これってあたり前のことだと思いませんか?

それを私ごときの人間がずっと懸念していることに驚きませんか?

毎日当たり前のように手探り治療が行われているんですよ?

見える治療は素晴らしいと言っている人達が顕微鏡を使って。

歯科治療で直視直達治療をするにはどうしたら良いのか。

ミラーテクニックを主体にする以外方法はありません。

ミラーテクニックを習得するには歯科医師、歯科衛生士のたゆまぬ努力が必須です。
直視直達治療が顕微鏡歯科治療の本質なのだと、その必要性を理解しないと続けられないくらい習得は難しいものだと思います。

さらにアシスタントが必要になります。
アシスタントは治療を支えてくれるなくてはならない存在なのです。

直視直達治療にはミラーテクニックが必須ですが、この治療法が普及していないのは以前の私のように教育による洗脳によって、見えていない治療をしていることに気がついてないということが考えられます。
また、気がついたとしてもミラーテクニックを習得することができずに手探り治療をし続けている人も多いのでしょう。

この問題は日本だけではなく世界の歯科医療界も同じです。
むしろ日本は顕微鏡歯科治療先進国です。
世界中探しても顕微鏡下直視直達治療をしている歯科医師は私が知る限りほとんどいません。
特に下顎は。
上顎ができて下顎ができないのは歯科医師として片手落ちです。

なぜそれほどまでに直視直達治療にこだわるのか。

歯科治療には成功率100%はありません。

故野村監督の言葉に「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負け無し」
という言葉があります。

雑な治療をしてもうまくいく場合があります。
しかしうまくいかない歯の治療には必ず原因があるのです。

手探りではその原因に対処できません。

ネット上では耳に心地よい言葉が沢山並んでいます。
すべては患者様のためにとか保険で最先端顕微鏡治療とか。

本当に患者のためを思うのなら、たゆまぬ努力によってミラーテクニックを習得して顕微鏡下直視直達治療を行うことこそが患者さんのためだと信じて疑っておりません。
その努力こそが患者さんに対して真摯であり謙虚であり優しさだと思っています。
これは私の大切な友人へのエールでもあります。

顕微鏡歯科治療の中でも長い間手探り治療の代名詞であるクラウンの形成と外科に関して指針を示さねばと私自身の課題に取り組んできて、学会発表という形にできました。

一般歯科において親知らずの抜歯は頻度は高いので直視直逹で抜歯できれば、抜歯後の痛みや腫れを最小にできれば患者さんに喜ばれると思います。

外科において直視直逹治療は手術の安全においてもとても大事なことです。

患者さんは50代男性で右下の親知らずの抜歯を希望され来院しました。
当院で何度か顕微鏡治療をされている患者さんで、以前他院で左下の親知らずを抜歯した時大変な思いをしたそうです。

CT

水平ではなく垂直的な埋伏歯抜歯は意外と手こずることがあります。
歯冠遠心部に骨があるのでそれなりに難易度高めです。
さらに根尖部が3つに分かれていてそのうちの一つが舌側の薄い皮質骨付近にあります。
やや湾曲しているのでもし抜歯するときに折れてしまい、残った根尖部分を取ろうと手探りで押し込んでしまうと薄い皮質骨を壊して舌下隙に落としてしまいます。
想定できることをCT画像でシュミレーションしてイメージトレーニングします。

抜歯の治療費は難易度によって変わりますが、今回の抜歯は91,300円(税込)です。

抜歯前に口の中を清掃し、触診で歯肉に覆われている下の硬組織の形状を把握します。

切開はしっかり骨膜までメスを入れます。
顕微鏡下でメスを扱うときは口唇を切らないように慎重に口腔内に運ぶことが大切です。

剥離は必要最小限に留めます。
今回は垂直的な埋伏歯なので何をどこからどこまで切削するのか術者の持っている技量によって変わります。
それが術後の痛みや腫れ具合を左右すると思います。

まずは隣の歯にぶつかっている部分を切削しスペースを作ります。
私はミラーテクニックができるおかげでどの部位の治療をするにしてもいつも同じ位置から治療しています。
患者さんの頭の上のポジションを12時の位置といいます。
私がいつも同じポジションという事はアシスタントもいつも同じ位置なのです。

だから抜歯だろうが虫歯の治療だろうが毎回似たような映像なのがお分かりでしょうか?
対象としている治療法が異なるだけなのです。
ワンパターンなのでアシスタントも1通りの方法だけ修得すればいいのです。
経験を積んで磨きをかけるのにとても合理的な方法なのです。ミラーテクニックは。

モータライズドマイクロスコープは自分が必要とする倍率をフットペダルで調節することができ、常にフォーカスを合わせることができます。
倍率とフォーカスが合っていなければ見えていない事と同じです。

分割した後歯冠を除去します。
歯冠除去をしたらこの後脱臼を行いますが、器具を入れるために歯と骨の間にスペースを作る必要があります。
骨はなるべく削りたく無いので歯を削ってスペースを作ります。

脱臼する際にパキッという音と共に歯が揺れだしました。

術前のシュミレーションで予測していた事が起こってしまいました。
舌側の薄い皮質骨に接していた根尖部分が破折してしまったのです。

抜歯窩を確認すると折れて残っている根尖部分が確認でしました。
ミラーで確認する事は大部分の歯科医師はできると思うのですが、これを見ながら正確に器具操作をして舌下隙に落とさないように残った根尖部分を取り出せる歯科医師はそれほど多くいないと思います。

歯根膜腔に短針を入れて、押し込まないように正確に器具操作をします。
これが直視直逹治療で顕微鏡歯科治療の本質なのです。

ミラーを使わずに直接顕微鏡で口の中を、死角を手探り治療する事が直視では無いのです。

破折部分を合わせるとCT画像通り湾曲していました。

抜歯後若干の内出血がありましたが痛みがほとんど無くとても喜んでおられました。

私は全てのジャンルで顕微鏡歯科治療に精通しているわけではありません。
一人でできる事に限りがあります。
しかしその範囲を広げていきたい意欲はあります。
他のジャンルで長けている歯科医師を参考にしたいのですが、直視直逹治療を共通言語としていないので話が噛み合わないのです。

せめて日本顕微鏡歯科学会では直視直逹治療を大前提とした顕微鏡歯科治療で、それぞれの分野での顕微鏡歯科医師が情報交換できる場にしたいという構想を抱いています。

これって独善的で私のエゴなのかなあ?
でもいつか実現させたいです。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔