歯医者が誤ってあけてしまう穴。
パーフォレーション。
月日が経てば経つほど経過は厳しくなります。
今回はパーフォレーションして不具合を起こしている歯の根管治療を紹介します。

患者さんは30代男性。
左下の奥歯の痛みがあり来院されました。

実は数年前からこの歯のパーフォレーション(人為的にあけてしまった穴)は認識していました。

パーフォレーションは新鮮なものであれば的確な治療をすれば経過は良いですが、時間の経った陳旧性のものは予後があまりよくないといわれています。

もちろん数年前から早めに治療することを勧めていましたが、本人は痛みはないのであまり乗り気ではありませんでした。

今回は咬合痛などの自覚症状があったため治療を希望され来院されました。

CT画像では近心根に根尖病変が認められVertucciのtypeⅣでした。

前医はパーフォレーションに対してアマルガムで塞いだようですが、完全に歯の外、すなわち体内に押し出してしまっています。

たとえ顕微鏡治療でも成功率は100%ではないことを十分に説明し、かけた費用と時間に見合わない結果になるこがあることをくどいほど説明しました。

施術する自分はもちろん100%の成功を目指して全力で取り組みます。

患歯は左下6、奥から2番目の歯です。

当たり前のようにラバーダムをし、当たり前のようにミラーテクニックで治療を開始します。

銀歯を外したところ。

コアと呼ばれる土台を除去していきます。

コアを除去し始めると大きな虫歯とともに腐敗臭も強くありました。

感染歯質をきれいに取り除いていくと、パーフォレーションを埋めていたアマルガムの全貌が見えました。

アマルガムを除去するとパーフォレーションが認められました。

アマルガムは無機水銀を使用した合金で、私はかれこれ20年くらい使ったことはありません。
除去はたくさんしています。

アマルガムに限らず金属を除去する際は、なるべく飲み込まないようにラバーダムをすると安心です。

押し出されたアマルガムを除去します。

さらに内部を整えていくと近心にクラックが認められました。

本来ならきちんとフェルールを得ておきたいところですが、費用と期間の兼ね合いで患者さんは希望されませんでした。

陳旧性のパーフォレーションはただ穴を埋めるだけではなく、感染源を可及的に除去する必要があります。

感染源を残して封鎖しても全く意味はありませんし、感染源があると封鎖もできません。
穴がちょっとくらい大きくなろうとも感染をとることが第一です。

このパーフォレーションは舌側のポケットと交通しています。

ポケットと交通してしまうと芳しくないので、患者さんにブラッシングの徹底をことあるごとに伝えています。
幸いに患者さんはとても綺麗にお手入れができているので歯肉の状態も良好です。
パーフォレーション部はスーパーボンドで封鎖しました。

根管充填材を除去し根管内の感染源を可及的に除去します。
CTで詳細に根管の形態を観察して、感染源が残留している箇所を推測して機械的に清掃します。

根管治療を開始してすぐに患者さんの自覚症状は消失しました。

次亜塩素酸ナトリウム溶液で20分間洗浄します。

根管充填はMTAセメントで行いました。

根管充填後レントゲン写真

コアを築造して仮歯で経過を確認し最終的なクラウンを装着しました。

根管治療4ヶ月後

術前術後の比較

アマルガムの押し出された小片は取り除くことはできませんでしたが、今の所問題なさそうです。

今回の患歯は問題が山積しており、治療回数は7回に及びました。
費用は20数万円です。

近心根の病変も不透過性が増して経過は良好です。
分岐部も良さそうです。

本当はこんなに具合が悪くなる前に的確な治療をしておけば大変なことにならなかったのに。

神経をとる治療、つまりイニシャルトリートメントの時にきちんとした事をしておけば成功率は90%以上と言われています。
これは日本の保険の治療のことではありません。

最初の治療が大事です。

私が手がける根管治療はほとんどが再根管治療、つまり今回のように問題を抱えた根管治療の再治療。

根管治療でこじれてしまった歯、もしかしたらなんとかなるかもしれないので相談に来てください。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔