根管治療後、痛みがひかない患者さん

ある日、千葉県市川市にある某歯科医院の先生から連絡がありました。

『他院で根管治療(歯の根っこの治療)を受けている患者さんが、何回も治療を受けても一向に痛みがひかないため、(セカンドオピニオンとして)その先生に相談しにきた』とのことでした。そして、その先生が改めてレントゲン写真を撮影して痛みの原因を探ってみたところ、根管治療(歯の根っこの治療)時に根管内に残された破折ファイルを発見しました。

根管治療を行う際には、歯の根っこの管の中を『ファイル』と呼ばれる針のような道具できれいにしていきます。 しかし時折、この治療時中にファイルが偶発的に根っこの管の中で折れてしまうことがあります。 そして、その折れたファイルが残されたままになっている状態、これを破折ファイルといいます。

根管治療

その先生の歯科医院では、破折ファイルの治療ができないため、当院にご紹介という形で、その数日後、当院に患者さんとご主人が相談をしに当院にご来院されました。

実は、破折ファイルは、必ずしも除去しなければならないという訳ではありません。根管治療の目的は感染源の除去です。そのため、折れてしまった破折ファイルが感染を引き起こす感染源で無ければ、場合によっては除去しなくても構いません。

しかし、こちらの患者さんは、治療後も痛みがひかないし、ファイルが取り残されている歯を抜きたくない、そして、きちんと治したいという強いご希望があったため、当院にて歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使った(再)根管治療をおこなうことになりました。

それでは、今回行った破折ファイルの除去について、その治療内容について具体的に紹介していきたいと思います。下記が、今回の症例の破折ファイル除去の様子です。まずは動画を御覧ください。

破折ファイル除去の様子(動画)

破折ファイル除去には難易度がある

まずは、こちらが初診時のレントゲン写真です。根管治療時のファイルは、根の湾曲部で破折することが多いです。

レントゲン画像

そして、こちらがCTによる画像診断データです。取り残された破折ファイルの長さは約3mmで、湾曲の角度は約37度であることが確認できました。

破折ファイル CT画像

破折ファイル CT画像

CT画像

事前にCTスキャンで、破折ファイルの長さや角度を測定するのは、破折ファイルを除去する際に、その状況によって難易度が変わるからです。

例えば、当院の破折ファイルの分類は以下の通りです。(ファイルの頭が見えるという条件下にて)

・4mm以下で30度以内
・4mm以上で30度以内
・4mm以下で30度以上
・4mm以上で30度以上

難易度によって、その治療内容がかわるために治療費用も異なります。特に、今回の患者さんの場合、一歩間違えると、破折ファイルが根管外へ飛び出してしまい、上顎洞へ迷入してしまうリスクがありました。そのため、このあたりのリスクも含め、患者さんには術前に十分な説明を行い治療を開始することとなりました。

以下は、破折ファイル除去治療を開始する直前の画像です。ここからは、「そもそも論」になりますが、私の感覚では、『破折ファイルを除去するしない』以前に、根管治療の体をなしていないと感じました。正しい根管治療になっていないということです。

そしてこれは、前医の治療を否定しているのではありません。これが、保険治療の現実だからです。(保険治療と自由診療の違いについては、本ブログ後半で、もう少し深くご説明いたします)

ここからは当院での根管治療の再治療についてご説明していきます。

治療前

隔壁

当院における破折ファイル除去の様子

まずは、(顕微鏡歯科治療での)根管治療おきまりの施術ですが、漏洩を防ぐために隔壁を設置します。隔壁をしてラバーダムをかけて、これで初めて根管治療が開始できます。(保険治療ではここまでやりません)

この患者さんに残されていた破折ファイルは、近心頬側根ですが、髄腔内がまだ綺麗でないことと、口蓋根が、いつも私が綺麗にしている風景と異なっていたので少し探りを入れてみました。すると、上部に壊死した歯髄(歯の神経)がベッタリと根管の少し窪んだところにへばりついていました。

これは立派な感染源です。

実は、この感染源を取り除いただけで、患者さんの痛みは劇的に少なくなりました。そして、ある程度、全体を綺麗にしてから問題の破折ファイルの除去に取り掛かります。

破折ファイルの除去の場合、ファイルの頭が見えるか見えないかが大きな違いで難易度が大きく異なります。特に、見えないファイル除去は難易度がとても高いです。

今回は、運良くファイルの姿が見えていたのと、長さが3mm、角度が37度なので、中程度の難易度でした。しかし、前述したとおり、上顎洞への迷入は絶対に避けたいところです。

できるだけ小さい範囲を削り、的確な形成をしていきます。歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使うことで、これが可能になります。

そのうち、ファイルが緩んでくるとグルグルと動き出しました。

いつものようにEDTAを満たして超音波をかけましたが、湾曲度が強く根管壁にぶつかって出てこないので、ループで取ることにしました。

ループの角度を調節します。

ファイルにループを引っ掛けます。

ようやくファイルが除去されました。これが除去したファイルです。実際に除去できたファイルは、CTで計測したとおり3mmのファイルでした。

除去された破折ファイル

除去された破折ファイル

破折したファイルを除去したことで、御本人とご主人はたいへん喜んでおられました。患者さんの助けになれた事で、私自身、とてもうれしく思います。

保険治療と自由診療の費用の違いでのとまどい

今回の患者さんのケースは、わたしの説明を正しく聞いていただき、自由診療での破折ファイル除去を行うこととなりました。

しかし、いざ自由診療での根管治療を行うとなると、費用負担の壁が大きく立ちはだかります。
こちらの患者さんも同様で、当院での自由診療での根管治療の費用については、最初は大きく戸惑いを感じているようでした。

それはやむを得ない事だと思います。

保険治療で根管治療を行った場合、それらにかかる費用はトータルで10,000円ほどです。実際には、その3割負担でいいわけですから、患者さんが窓口で支払う治療費は3,000円ほどです。

それに対して、当院の根管治療費(自由診療)は約200,000円です。桁がいくつも違います。

しかし、当院で自由診療で治療を行うか否かは「選択」の問題だと思っています。

1本の歯の根管治療に200,000円もかける患者さんと、保険治療でいいやと考える患者さんの何が違うのか、ここからは、少し深堀りして考えてみたいと思います。

わたしは、その違いは価値観の違いだと思っています。

例えば、200,000円を何に費やすかという価値観です。

海外旅行に行きたい。
パチンコに行きたい。
タバコを吸いたい。
ブランドもののバッグを買いたい。
高級腕時計を買いたい。

様々な欲求がある中、同じ200,000円を使うなら『自分の歯の治療費に』使いたい。
このように選択する人は、つまりは、お金の使い方が違うだけです。

もちろん、当院に来ご来院くださる患者さんは、初めからこのような考えを持っている訳ではあありません。しかし、かつて受けた歯科治療で痛い目にあった患者さんは特に、何がいけなかったのか知りたがり、その理由について、わたしが説明することを真摯に聞いてくださった結果、当院での自由診療治療を『選択』してくださる方が多いです。

歯科の保険診療と自由診療

どんな歯科医と出会い、どんな行動変容をおこすか

日本人哲学者に森信三氏という方が、以下のような言葉を残しています。

人生、出会うべき人には必ず出会う。しかも、一瞬遅からず、早からず。
しかし、内に求める心なくば、眼前にその人ありといえども縁は生じず。
森信三

これは、自分の人生を変えるような人と出会っていたとしても、自分の心の中に求めるものがなければ、深い縁にはならず、自分自身に影響を与えるような出会うべき人にならないという事を示唆しています。言い換えれば、相手が出会うべき人になるかならないかは、自分自身が決めているということです。

わたしが患者さんにとって、人生を変えるような歯科医になるかならないかは、患者さんの心の中に、内なる求める心が芽生えたか?という事につきます。そして、その内なる求める心に気づいて頂くためには、わたしが説明などで、きちんと訴えかけなければなりません。

今回の患者さんは、わたしの説明をきちんと聞いてくださり、自由診療での根管治療を受けることを選択してくださいました。

このことは、当院(おもて歯科医院)が、日本全国に7万余軒ある歯医者さんと違う視点で「歯に対する価値観」を伝え、患者さんの行動変容を起こしたと言い換えることができます。

これこそ、前述した森信三氏のいう「縁」になったという事なのです。

おもて歯科医院が目指す歯科治療とは

当院は2019年5月にクリニックを移転いたしました。開業当時の場所から50メートルほど行った大通り沿いに移転しています。

わたしは、この移転をキッカケに、自分が突き詰めようとしている顕微鏡歯科治療について、より積極的にアグレッシブに進んで行こうと心に決めています。

現在の日本の歯科医療は、保険治療が主軸となっているため、様々な問題が取り残されています。

例えば、増えすぎた歯科医院は、過激な競争が生じています。患者さんを奪い合うような、過当競争の中では、ひたすら治療の数をこなして利益を生み出す薄利多売の保険診療が主流となってしまったようで、心のなかで寂しさを感じています。

しかし、最も深刻な問題は、患者さんへの正しい情報発信が不足している事です。

患者さんが歯科医院を選ぶ時に参考にしているのホームページには、美辞麗句の文言が踊り、さらには、安い治療が良心的なことのように勘違いされてしまっています。

そして、これらの問題を置き去りにしてしまっているのは、わたしたち歯科医なのかもしれません。

今回、破折ファイル除去治療に至った件に関しては、わたしは決して前医の治療を否定しません。なぜなら、ファイルの破折は不可避のことだからです。治療済みの根管内に感染源が多量に残ってしまっていることも、よく見かけることなので、前医が特別技量不足だとはまったく思っていません。

ただ、今回の患者さんのように、わたしのような、大多数の歯医者とは違う視点で、歯の大事さ、価値観について説明できる歯科医にもっと早く出会えてお話できたら、こんなに苦しまなくても良かったかもしれない….と思うと、歯がゆさを感じてしまうわけです。

もしかしたら、歯の神経もとらなくて済んだのではないかと思います。

わたしは、新しい場所に移った事で、これからもより多くの患者さんとの「縁」を築いていきたいと考えています。

沢山の患者さんが、未だかつて歯科医から聞いたことがないような、新たな価値観を見出すことによって、『自分の歯を大事にできる、大事にしたい』という人との出会いの頻度を多くしたいと思っています。

このように、今回のこの患者さんのケースを通して、現在の歯科医療について様々な思いが私の心の中を巡りました。

ひとの一生は短いものです。
自分が信じた道を、これからも信じて進み続けたいと思います。

私は、医療全般において、優しい対応は必要不可欠だと思います。

しかし、優しいだけでは歯は治りません。
移転後のおもて歯科医院の向かう道は、実力主義の正統派歯科医院です。

当院には遠方からお見えになる患者さんもいらっしゃいますが、やはり近い方が良いに決まっています。浦安市内で、私にしかできない歯科治療を必要としている患者さんはいるはずです。ぜひ、お声かけいただきたいと心から思っています。

治療費,治療期間,主な副作用

費用:約200,000円
治療期間:4回受診
主な副作用:破折ファイルの上顎洞迷入

執筆者情報

おもて歯科医院 表 茂稔

表 茂稔歯学博士/日本顕微鏡歯科学会認定指導医/顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔

〒279-0043 千葉県浦安市富士見1-11-29
TEL:047-354-8777

関連記事

破折ファイルに関する関連記事一覧