歯科医院を選択する基準〜〜皆さんはどのような基準で選んでいますか?
先生が優しい、家から近い、遅い時間まであいている、日曜日も診療しているなどなど。
これらの基準は、どこの歯科医院でも病気を同じように治せるという前提であれば確かに選択の基準になり得ると思います。
しかし、、、

患者さんは20代女性で左下の一番奥の歯(第二大臼歯)が、激痛で来院されました。

日本人の下顎第二大臼歯には樋状根という形態をした根を持つ人が割と多くいて、根管治療になると難易度が高くなる傾向があります。

患者さんの第二大臼歯もレントゲン写真から樋状根と診断し、根尖付近には骨の透過像を認めました。
いわゆる根の中に感染源があり、骨が膿んでいる状態でした。

とにかく痛くて食事も摂りたくないし精神的にも身体的にも疲れているようなので応急処置をしてとりあえずの除痛をしました。
その後、今後の治療法を決めるために今までの経緯を聞かせてもらい、当院の治療法、費用と予想される経過などを説明しました。

患者さんはこの歯の最初の治療をするのに選んだ歯医者は、夜遅くまで開いていて仕事帰りでも通えるため便利ということで治療を依頼したそうです。

特別治療にあたって説明はなかったそうです。

今回当院で治療するにあたって、大きく分けて2つの方法があることを説明しました。

一つは保険治療。
これは今まで受診してきた歯医者とそれほど変わらない治療内容のため、経過は不良になる可能性が高く、行き着くところは抜歯になるかもしれないことを伝えました。
治療回数は3回位、一回あたりの治療時間は約20分。
費用は3割負担で約3,000円くらい。

2つ目は顕微鏡治療。
当院が得意としている治療法。
自由診療で、この患者さんの根管治療費はおよそ250,000円(コアまで)。
治療回数は3〜5回で一回あたりの治療時間は1〜1.5時間。
経過は、成功率は医療なので100%ということはありえないこと。
当院の10年以上の経験では多くの歯は経過が良好であること。
コンベンショナルな根管治療で経過が良くなければ外科的な治療法があり、その治療費は別途であることを説明しました。
最悪のことを想定すれば、折角時間と費用をかけて治療をしても良い結果が出ないこともあります。
もちろん私は、誰のどんな歯であろうが成功率100%を目指して全力で治療にあたっていますが、医療なので100%はあり得ません。
患者さんがこの事実を受け入れられれば私は全力で取り組みますし、どうしても成功しない可能性のある歯に費用をかけるのに躊躇するのであれば、当院での顕微鏡治療は見送ったほうが良いと思います。

ちなみに顕微鏡は保険では使えないということではありません。
当院では顕微鏡を使うから自由診療ということではなく、自由診療を選択した治療にはすべて顕微鏡治療をおこなっています。義歯以外は。

ですから保険で顕微鏡を使ってほしいと考えているかたは、インターネットで検索してみて下さい。
保険で最先端顕微鏡治療を行っている歯医者はたくさんあります。

患者さんは今までこのような説明を聞いたことがなかったようで、とても腑に落ちたとおっしゃっていました。

患者さんの今回の歯科医院の選択基準は「治せる」という基準に変化しました。
次回から顕微鏡根管治療を開始することになりました。

当院では治療をすることが決まったら、CTはほぼ必ず撮影させてもらっています。
複雑な根管系をCT無しで行うのは、現代の根管治療では無謀にさえ感じています。
他院で撮影したCTをお持ちだとしても、当院で治療するのなら当院のCTでもう一度撮影させてもらっています。
セカンドオピニオンとしてなら他院のCTでも良いのですが、治療の作戦を練るには使い慣れているCTの方が診断、戦術、戦略を立てやすいのです。

最初にメタルコアを除去します。
ラバーダムを装着してから開始。

歯とラバーダムの間に隙間があると唾液の漏洩や薬液の口腔内への漏れができてしまうため封鎖します。

私は根管治療だけを行っている根管治療専門医ではないので、根管治療後の補綴(冠を被せる治療)のことまで考えて治療を行います。

冠を被せる(クラウン)ための条件にフェルールというものがあります。
歯肉より上に健康な歯質が2ミリ以上あると長持ちしやすくなります。

メタルコアを除去する際、往々にしてフェルールを考えずに歯質を削除してメタルコアを外しているケースが大変多いと感じています。

私は下顎でもミラーテクニックができるので、フェールールを温存してメタルコアを除去することができます。

すなわち、メタルを削除し分割して歯に負担をかけないように除去します。

メタルを切削するので金属の削りカスが口腔内に巻き散らかさないためにもラバーダムはとても有効です。

メタルコアを安全にかつフェルールを温存しながら除去した後、内部をきれいにしていくと遠心部にパーフォレーションが見つかりました。

パーフォレーション部をきれいにしていくと、前医が穴を埋めたと思われる接着していない充填物がごっそりと取れました。

根管口を観察すると手つかずの根管がありました。
樋状根に加えて一番奥なので前医は見つけることができなかったのですね。

フェルールに配慮したとしても、第二大臼歯の歯冠長は短いので隔壁は必要になりますし、歯冠長延長術も必要になります。

これでやっと根管治療が行える環境が整いました。

根管充填材の除去

パーフォレーション周囲の感染の除去。

きれいになったらパーフォレーションリペア。

歯肉縁付近なのでスーパーボンドで封鎖。
その後歯冠長延長術したので、最終的にはクラウンでパーフォレーション部は覆った。

次亜塩素酸ナトリウムで根管洗浄を十分行った。
洗浄は現代の根管治療ではとても重要視されています。
ラバーダムをしなければ次亜塩素酸ナトリウムが漏れて大怪我してしまいます。

MTAセメントで根管充填。
樋状根のような根管形態にはMTAセメントは充填の仕方が難しいかもそれません
樋状になっているので細部まで緊密に根管充填するにはコツが必要そうです。

根充後レントゲン写真

術前・術後

患者さんの歯は治療が始まってから痛みがピタッとなくなり、仮歯をいれても不自由なく噛めるのでこれからクラウンの型どりをする予定です。

歯科医院を選ぶ基準は人によって千差万別です。
今回の患者さんのように、きちんとした情報を歯科医師から説明されれば、選択基準が大きく変化する患者さんもいらっしゃいます。

歯科医院にはそれぞれ特徴があります。

おもて歯科医院の特徴はこのような説明・治療を毎日行っている歯科医院です。

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔