2019
10/06
神経をとらないためには
- 2019.10.06
- ブログ歯記
- MTAセメント・ 覆髄・ 顕微鏡歯科治療(マイクロスコープ)
歯の神経は可及的にとらないことが歯の長持ちにつながります。
炎症が進み、除去すべき神経を残すということではありません。
残せる神経、残せない神経、これを鑑別するには診断がとても重要です。
患者さんは50代女性。
以前から違和感があったがここ最近、温かいものでジンとするような症状がでてきたとのことでした。
違和感のある歯は右上の歯で、すでに治療済みで修復物が装着されている歯がほとんどでした。
レントゲン写真を撮影すると、第二小臼歯にひときわ深いところまで修復物が認められました。
患者さんから違和感の状況、治療したその当時のことを問診で聞き取りをした結果、第二小臼歯の治療をした時にもしかしたら露髄(神経の一部が露出すること)したためにこのような症状がでているのだと推測しました。
たとえ露髄したとしても、適切な処置をすればまったく問題ないのですが、露髄面が小さければ、治療をしている歯科医師も気づかないことがあります。
実際に患者さんは担当歯科医師から神経近くまで虫歯が進んでいたが神経までは到達していなかったと説明を受けています。
治療中はラバーダムは装着していなかったようです。
私は問診から、十分に歯髄を抜かずに温存できると判断し、患者さんに顕微鏡治療を提案しました。
歯の治療は修復物を除去してみたら予想外に状況が悪かった、ということも珍しくないので、状況によっては治療の大幅見直しもあり得ること、費用の説明を十分に行いました。
患歯にはMODインレーが装着されていました。
MODインレーはカタカナの「コ」の字をしています。
名の真ん中を削って嵌め込むので、私はあまり好みません。
適合の良いインレーを作製するのも非常に困難です。
今回は露髄が予想されるので感染対策としてラバーダムは必須です。
歯の治療をやり直すとき、歯は更に大きく削るということが歯医者にも患者さんにも言われていますが、悪くなった部分は削らないといけませんが、少なくとも修復物を除去するときは心配するほど歯を削りません。
その理由は顕微鏡治療で「見ながら」治療するからです。
修復物だけ削除し、健全歯質は可及的に触れません。
今回のインレーは、ほとんど歯に接着していないため、まるまる自然にとれてくれます。
この写真は自然にとれた一瞬を記録したものですが、このようにはじけて外れます。
接着がしっかりしている修復物はやはり除去はそれなりに大変です。
今までレジンなどの修復物を沢山除去してきましたが、しっかり接着してるなあと感心した修復物は極少数です。
インレーの下にはさらに裏装材が充填されています。
歯質を削らずに裏装材を慎重に除去します。
この裏装材も歯面と接着していないので除去は楽でした。
裏装材を除去するとやはり露髄していました。
細い器具で確認します。
今回はやや症状もあるということなので、2回法を選択しました。
仮蓋から漏洩しないようように隔壁を設置しました。
更に治療をすすめると口蓋側にも露髄面がありました。
う蝕検知液を参考にして内部を整えます。
う蝕検知液は細菌と反応するわけではなく、物理的にポリプロピレングリコール分子が入り込むところが染まるので、歯髄腔付近では健全歯質でも染まるので複数の判断材料が必要です。
歯髄の色、艶、象牙質との密着度、出血量から歯髄温存療法を選びました。
MTAセメントで覆髄。
グラスアイオノマーセメントで仮封。
術後の症状を確認し特に問題なければ築造を行います。
歯髄腔に非常に近接しているので水分の遡上をなるべく防がないと接着不良を起こしてしまいます。
現状ではスーパーボンドを一層置いてからレジンを使用しています。
歯髄温存を成功させる大きな要因は診断とリーケージ対策です。
残せる歯髄なのか残せない歯髄なのか、修復後長年月に渡って漏洩を防ぐことができるか。
この2点が非常に大事です。
今回の症例はクラウンを予定しています。
現在歯髄の診断で確実な方法は存在していません。
診断機器を使用した情報と直接歯髄の視診を総合して判断をしていますが、割と直接歯髄を視診した方が信頼性があるように感じています。
この治療にも顕微鏡は非常に有効だと感じています。
歯髄を残したいという患者さんの気持ちは良くわかりますが、診断を誤ると成功しません。
今回は症状を確認したかったので2回法を選択しましたが、最初から私が顕微鏡で治療し、無症状で露髄したら1回法を選択することもあります。
それほど診断と治療工程がしっかりしていたら信頼性のある治療法ではないのかな、と実感しています。
今回の歯髄温存療法の直接覆髄の費用は自由診療で約7万円です。
・問診
・診査
・診断
・感染対策(ラバーダムなど)
・顕微鏡
・MTAセメント
・接着(漏洩対策)
・技術
・知識
覆髄処置に限らず、細菌を相手にしている歯科治療全般の共通のキーワードとしてこのような用語を列挙してみました。
電話でお問い合わせ頂いても、診察しないとなんとも返答ができません。
自由診療での顕微鏡治療をご希望の方は初診(顕微鏡診査・レントゲン含む)で1時間25,000円です。
他の患者さんからの連絡がありますので長時間の問い合わせはご遠慮ください。
自由診療での顕微鏡治療による直接覆髄のメリット、デメリット
メリット
・歯髄を残せる可能性が高い
デメリット
・保険に比べると費用が高い
・歯科治療法としてのデメリットは、現存する方法と比べて私自身デメリットに当たる部分は見当たらない
寧ろこの治療法が標準的だとさえ考えている
保険治療では歯髄温存療法は3割負担の患者さんで450円。
再診料を含めても600円と国が費用を決めています。
AIPCというものはステップワイズエキスカベーションなので露髄をさせないことが前提で、再診料含めると700円くらいです。
保険のメリット
・費用が安い
デメリット
・当院では行っていないので特にコメントはないです
おもて歯科医院
歯学博士
表 茂稔