他院で根管治療がうまくいかなくて当院に相談に来られる患者さんは多いです。
当院の顕微鏡根管治療は自由診療です。
保険では顕微鏡根管治療を行っていませんのでご了承ください。

患者さんは開院当初からお見えになっており、約10年くらいのお付き合いになります。

その当時から左側の下顎第二小臼歯に根尖病変があるのは認識していました。
一通り本人の気になる歯の治療が終わったので、下顎第二小臼歯の根管治療をはじめました。

自覚症状は無し、レントゲン写真上では根尖に透過像を認めます。
10年前のレントゲン写真と比べ、透過像が大きくなっているかどうかは微妙でした。

比較するための規格レントゲン写真ではないので、現存するレントゲン写真だけでは正確な比較はできませんでした。

患者さんの希望は、現在装着されているクラウンの適合に不満もあるので、根管治療から始めたいとのことでした。

根管治療のリトリートメント(再根管治療)の成功率は60~70%と言われています。
これは根管の形態が複雑であれば成功率はもう少し低いものになるのでしょう。

ですから、術前にできるだけ患歯の根管形態を把握しておきたいのですが、従来のX線撮影では根管形態を知る情報はかなり限られています。

この写真は下顎小臼歯の透明標本で、歯の内部にインクを注入し歯の内部の観察をCTと比較しています。
通常のX線撮影ではこの方向からの撮影は不可能です。
だから私達はCTでないとこの方向から根管の形態を知ることができません。
さらに透明標本をよく観察すると、黒く染まる部位がなんと複雑になっていることに驚くことでしょう。

少しでも内部の情報を知っておきたいので、私は根管治療の際にはCTを撮影させてもらいます。

サジタル像

コロナル像

アキシャル像

CT像をよく観察して今回の根管治療に対する作戦をたてます。

この小臼歯は単根で頬舌的に扁平の1根管で、比較的単純な形をしているかのように見えます。
しかしいくらCTとはいえ側枝や根尖分岐がいつも見えるわけではありません。

下顎第二小臼歯の側枝の出現率は約40%で根尖3ミリ以内に80%程度見られます。
水平的には頬側から近心にかけて多く分布しています。

このような予備知識をいれておいて、前医のおこなった根管治療を想像してみます。
私も顕微鏡治療を行う前は普通の保険の治療をずっとやっていたので容易に想像できます。

まず、ラバーダムはしていません。
レントゲン写真での情報は限定的なものしか持っていなかった。
使用するファイルはステンレススチール。
根管治療の知識、う〜ん、たぶん乏しいと考えたほうが無難かな?
根管充填材は根尖付近まで充填しているので、多分盲目的にグリグリとファイルを進めるので、レッジやジップができているのだろうと想像します。

これらの一つ一つの項目をどれだけ確実に改善するのか、それができるのが自由診療の顕微鏡根管治療と考えています。

術前のCTサジタル像をよく見ると、根尖方向にむかって根管が湾曲をしているのがわかります。
ファイルの特性として、弾性があるので湾曲している根管内にファイルを挿入すると、元に戻ろうとする力が外湾に働きます。
その結果内湾のファイリングが不十分になりがちです。

そのような目でみると、根尖付近の根管充填材と根管の内湾に隙間があるように見えませんか?

今回私の作戦はこの内湾攻略がメインです。
もちろんフィンやクラックなどたくさんの見落としてはならぬものを、顕微鏡を覗いて脳内で情報処理しています。
ですから大抵顕微鏡治療している最中の私は寡黙で、余計なことにRAMを使わなくても良いようなアシスタントが必要なのです。

只今顕微鏡治療アシスタント募集中です。
経験・資格等不要です。
必要なのはグリットです。

まずは装着されているクラウンを外します。

メタルの削りカスが体内に入らないように、できればこの時からラバーダムを装着したほうが良いでしょう。
場所によっては装着できないこともあります。

メタルコアも外します。

根管治療後のクラウンの治療のことも考えて、フェルールを失わないようになるべく歯質を温存させるようにコアを除去します。

根管充填材の除去

根管充填材のガッタパーチャは多孔質のため感染源と捉えるべきです。
ガッタパーチャが根尖孔外に溢出している難治性の症例では、ガッターパーチャにバイオフィルムが形成されているのが確認されています。

根尖孔外に押し出さにようにガッタパーチャを慎重に取り除きます。

ガッタパーチャを取り除いた後は内湾を意識してファイリングします。
湾曲しているのでその先は顕微鏡でも見えませんが、CT像や根管形態の知識を駆使し、想像力を働かせて機械的な清掃を行います。

その後は化学的な洗浄を行います。

使用する次亜塩素酸ナトリウムは軟組織融解性が強く、舌や頬粘膜に接すると大やけどをしてしまいます。

言い換えればラバーダムを装着しなければ、十分な洗浄ができないとも言えるのではないでしょうか。

MTAで根管充填。

MTAはマイルドな硬化膨張もあり、生体親和性に優れ、水分がある場所でも硬化できる非常に歯科治療にとっては頼もしい材料です。

しかし、この材料を使うだけで効果が出るわけではなく、一連の各ステップがきちんとできていなければ意味がありません。

根管治療後8ヶ月。

術後デンタル写真

サジタル像

コロナル像

アキシャル像

術後の経過は非常に良好で、根尖周囲の骨も再生してきたと言っても良いのでしょう。

根管治療の経過は4年が目安ですが、現在治療後2年半ほど経過しています。

CT像でどんなに根管形態が単純に見えても、透明標本でもわかるように側枝や根尖分岐、象牙細管などどうしても治療困難な解剖学的部位があるのは確かです。

最善を尽くしても、外科的な治療が必要な時は必ずあります。
しかし、この外科処置をなるべく少なくすることは、術者の技量に大きく依存するのではないかと考えています。

治療回数 3回
顕微鏡根管治療費 約17万円

おもて歯科医院
歯学博士
日本顕微鏡歯科学会認定指導医
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医
表 茂稔